76:強奪事件
「なーにが“今の花子に相応しい吸血鬼になりたい”だ格好つけやがって死ね。花子を淋しがらせた罪は重い。」
「喧しい黙れ死ぬのはお前だ逆巻シュウその手を離せ。」
「………うぅ、」
何だこの懐かし過ぎる態勢は。
いや、寧ろ悪化している気がする。
今目の前にはお顔に青筋まみれの最愛。
そして私の体には180cmのご長男がぐるりと巻き付いてしまっている。
「そもそも俺がこんだけ頑張ってるんだから1日位花子の浮気許してもいいはずなのになんだお前どこの過保護だ母親気取りも大概にしろ」
「そもそも彼女の浮気を1日でも許す彼氏がいるなんて初耳だし俺は花子の母親ではなく最愛だと何度言えば分かるんだいいから花子を離せ殺すぞ」
じとりと睨み合いつつ棘のある会話しかしないお二人にもはや苦笑さえも出ない。
先程からシュウさんの足がガスガスとルキさんを蹴っているのでその度に彼の顔の青筋は一本、また一本と追加されてしまう。
あああ、このままじゃまた数秒もしないうちに…
「ていうかちゃんと城に向かう道で倒れてろって言うんだ。どんだけ探したと思うんだ馬鹿。馬鹿ルキ。」
「仕方ないだろう。少しでも花子と奴等を離したかったんだ。まぁしかし…悪かった。」
「え、」
シュウさんとルキさんの会話に思わず声が出た。
え、じゃぁもしかしてシュウさんが暫く部屋に戻ってきてなかったのはルキさんを探す為で…
ルキさんが中々見つからなかったのは少しでも私を危険から守るために敢えて道を外れて…?
「………、」
じわりと、シュウさんに抱き付かれながら涙が浮かぶ。
どうしよう…二人の優しさが嬉しくて胸が苦しい。
すると二人とも私の変化にぎょっと目を見開いて固まっていたけれど
やはり先に動いたのは逆巻の方のご長男だった。
ガスッ
「っ!」
「だから、俺は、何度も、花子を、泣かせるなと言ってるよな…?」
「しゅ、シュウさん…シュウさん!私泣いてませんよ未遂です!!」
以前の時同様、勢いよくルキさんを蹴飛ばして今度は彼が顔に青筋を浮かべてそのままルキさんを踏みつけてしまうモノだから
慌てて弁解すると長い溜息の後ようやくその長い足をどけてくれて安堵する。
「ったく…陽動するのはいいけど、倒れるならちゃんとしたとこで倒れろ。花子が泣く。」
「む、無茶苦茶な注文をするんじゃない!!!」
よろりと起き上がったルキさんにとんでもない要望を出してしまったシュウさんに対して堪忍袋の緒が切れたのか
彼は強い力で私の体に巻き付いているシュウさんを引きはがして勢いそのままにゴチン!とその頭をシュウさんのお顔にヒットさせてしまった。
「……っ!ルキ、お前殺されたいのか?いった…」
「殺されたい?そんな訳ないだろ。最愛の花子を残して逝く馬鹿がいるか。貴様が死ね。」
「ああああああ」
がいんがいんと、相変わらず額同士を何度もぶつけ合っての睨み合いにもはや私は輪に入れない。
本当に…どうしてルキさんはシュウさんが絡むとこんなにも大人げないのだろうか。
じっと彼らの争いをただ見つめていれば視線に気付いたシュウさんが意地悪に微笑んだ。
「花子、ルキが余裕がないのは俺がルキより花子を知っていて、ルキより先に花子の変化に気付けるから。」
「………え?」
「…っ、逆巻シュウ貴様…!」
シュウさんの言葉に自分の顔がぼふんと赤くなる。
え、じゃぁルキさんが大人げないのは私が原因なんですか?
シュウさんの方が私を知って理解しているから最愛としての余裕がないって…そういう…
顔が際限なく熱くなるのが分かる。
もうどうしようもなくて取りあえずこんな顔だけは見られたくなくて両手でとっさに隠したけれど
その場に気まず過ぎる沈黙が暫く流れて次に聞こえたのは机か椅子かは分からないけれど何かが沢山倒れる音だった。
「……?る、ルキさん!?」
恐る恐る手をどけて今起こっている現状を確認すれば、どうやらまたシュウさんに蹴り飛ばされたであろうルキさんが
沢山の机や椅子に埋もれて彼を睨みつけていた。
そして肝心のシュウさんは表情こそ穏やかだけれど後ろに絶対閻魔さまがいる。確実に。
「まぁそういうわけでコイツ、借りてくから」
「え」
「は?ちょ、貴様…ま、」
椅子達が邪魔をして中々起き上がれないルキさんをしり目に、
シュウさんはひょいっと私を抱え上げてそのまま何事もないように教室を後にする。
立ち去る教室内でルキさんの叫び声が聞こえたけれど今の私にはどうする事も出来ない。
「ええと、シュウさん…どこへ行かれるのですか?」
「でーと」
私の質問に間髪入れず答えたシュウさんにもはやこれ以上何を言っても無駄なんだと悟って大人しく小脇に抱えられたまま黙ったけれど…
ええと、私は小脇にかかえたままデートって初耳ですが
吸血鬼の世界ではこういうのが流行ってるのだろうか。
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