77:彼の秘密


「すごく、不満。」



「ええっと…」




「花子が俺の事警戒しなさ過ぎて不満って言ってんの。」




シュウさんの小脇に抱えられながら大人しくしていれば不意に不機嫌すぎる声が聞こえて顔を上げると声と同じく不機嫌な様子の彼がこちらをじとりと見つめていた。
そう言われても今までの事を思い返したとして、シュウさんを警戒する気になんてならないのだ。




「だって、シュウさん…お兄さんみたいなんですもん。」



「………。」



「いつだってルキさんで遊んでますが肝心な時は私もルキさんも助けてくれるでしょう?」



「花子は分かってない。」



クスクスと笑いを抑えながらも警戒しない理由を打ち明ければ
静かな沈黙の後、長い溜息と共に彼の声が響く。
分かってない…何を分かってないというのだろうか。




「ルキはついで。花子がルキを最愛に選んだから仕方なしに救ってるだけだ。俺が本当に救ってるのは花子だけ。」



「…あの、シュウさん。前も聞きましたけど…どうしてそこまでしてくれるんですか?」



「………あ、ついた。」



以前にも投げかけた疑問をもう一度問うてもまた誤魔化されてしまった。
なんだろう…シュウさん、どうして私の事をそんなに気にかけてくれるのだろう。
そっと彼の腕から降ろされて辺りを見渡せば意外にもそこはどこにでもある近所の公園だった。



「ええと、シュウさん。あの…」



「…………なぁ花子。」



静かに手近なベンチに座らされ、戸惑い気味に彼の名前を呼べばじっと私を見つめる瞳に体が固まる。
真っ青な海のような綺麗な色によく分からない気持ちがじわりと浮かんだ。



「花子、さ…今、しあわせ?」



「……どうしたんですか?突然。」



互いの瞳が揺れる。
私は動揺…シュウさんはきっと不安で揺れている。
そっと握られた手はわずかだが震えていた。



「ホントは、俺が花子を幸せにしたいんだ。…でも、お前が選んだのはルキだから。」



「………?」



「都合がいいのは分かってる…けど、ごめん。まだ花子を諦めることは出来ない。」



彼の言葉が全く分からない。
だってその言葉に全く心当たりも身に覚えもないのだ。
幸せにしたかったとか、都合がいいとか…まだ私を諦めることが出来ないとか…




彼は一体何を言っているのだろう。




「さっき…お前が原因でルキが余裕なくなってるって言った時の顔…ホントに、愛に包まれたような…そんな顔だった。」



「シュウさ、」



「花子、お前のしあわせを…ただ、願ってる。でも…お願い、」



ぎゅっと抱き締められてしまった体は苦しいくらいに締め付けられる。
普段と様子が違い過ぎる彼が心配になるけれど震える切実な懇願さえ、私には全く身に覚えがなくてどうしてあげる事も出来ない。




「お前を好きでいることだけはどうか許して。」



いつだって眠そうで、それでいて余裕のないルキさんで遊んでいた彼とはほど遠いこの姿。
もしかしなくとも今余裕がないのはルキさんじゃなくてシュウさんなんじゃないだろうか。



「シュウさん、シュウさんどうしたんですか?今日のシュウさん変です。」



「………そう、だな。ちょっと変か。…ごめん、わすれて。」



私の言葉に悲しげに笑った彼に何だか胸が痛んだ気がする。
どうしてだろう…どうして、こんなに胸が痛い。



「さて、ちゃんとしたデートしようか。ルキに見せつけて泣かしてやるあの調子ぶっこいた吸血鬼ホントムカツク。」



「………シュウさん、貴方何を隠してるんですか。」



「………ほら、いこ?」



「シュウさん!」



それ以上、彼は何も言ってくれなかった。
只、何も言わないまま公園、花畑…湖…たくさんの所へ手を引っ張られて連れていかれた。
けれど…




「………?」



彼に手を引っ張られて連れられた場所全て、初めてのはずなのに何処か既視感があって奇妙な気持ちが胸に渦巻く。
…どういう事だ。
記憶にないはずの光景がどうしてこんなに懐かしく感じるのだろう。




この時、じっと私を見つめるシュウさんの表情が酷く歪んだのに
愚かな私は気付かないまま、ただひたすらにこの既視感と彼の言葉の意味を考えていた



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