78:無い過去
見た事無いはずなもの全てに覚えがある。
不思議なそんな感覚の中、そっと取られた手さえも、どこかでと…
何処で?
「それはおかしいな。花子、本当に覚えがないのか?」
「そうなんです…でも、でも確かに、」
じっとルキさんに抱き締められながらも床の一点を見つめて考えるけれど心辺りはない。
無い筈なのに、何処かで覚えがあると私の中の私が言っている気がする。
あれから意外にもすんなり私をルキさんに返してくれたシュウさんはそのまま何処かへ行ってしまった。
『ちょっと、頭冷やす。…ごめんな、花子。』
その言葉が酷く脳裏に焼き付いていて
普段とは全く違う弱った表情にルキさんも私も何も言えずにそのまま彼の背中を見送った。
「花子、逆巻シュウは随分と前からお前を知っているようだが…花子はアイツを昔、見た覚えもないのか?」
「無い筈ですよ?あんなイケメンさん見たら覚えてるはずですし…」
そうなのだ。
シュウさんはおそらく大分前から私の事を知っている。
けれど私は彼を知ったのは高校に入学してからだ。
音楽室や屋上で眠ってるすごく格好いい三年の先輩がいる、と。
それだけ…ただそれだけだ。
「え、」
「花子!?」
ポタリ
どうしてか涙が零れた。
ひとつ、ふたつと零れるそれは次第に大粒なものに変わってきてしまい、後ろから抱き締めてくれていたルキさんが血相を変えて覗き込んできてくれたけれどこれは私も混乱を隠せない。
だって何も悲しくないんだ。辛くもない。
なのに涙だけがひたすらに零れ落ちるのだ。
「花子、どうした。何か思いだしたのか?それとも過去を振り返って辛くなったのか?」
「過去……、」
ルキさんの言葉に涙を零しながら首を傾げる。
過去…そうだ、過去。
シュウさんは私をずっと前から知っている。
だったら絶対に過去、私は彼に会っているはずなんだ。
色々な事を思いかえすけれど
その記憶の中にシュウさんはいない。
あれ、シュウさん…シュウさんといつ私はあったのだろうか?
…………あれ?
様々な過去を振り返って根本的な事が抜けている事に気付く。
私、私どうして…
「ルキさん、」
「花子?」
止まらない涙をそっと拭い続けてくれている彼を名前を呼ぶ。
そしてその腕にぎゅっと縋り付いて見上げると彼の瞳はぎょっと見開かれてしまう。
だって今、私…酷く切羽詰まった顔をしてる。
「私、どうして自分を嫌ってたんですか?」
覚えてないのだ。
私が私を嫌った理由。
私が自身を憎み始めたキッカケを。
あれだけ自身を嫌っていたのだから必ずキッカケがあるはずなのに、全く思い出せない。
気がつけば自身を憎んでいた。
それこそ生まれつきかのように当たり前に…
違う。
何か…何かあったはず。
なんだった…?
私はどうして自分を嫌いはじめたんだ?
わざり
何故か脳裏に浮かんだのは
沢山の場所に連れていくために、私の手をそっと取ったシュウさんの顔だった。
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