79:タネアカシ


「…?」



沢山の懐かしい場所に連れても花子は分からないと言った表情だった。
仕方ない。仕方ないけれど…



やっぱり、悲しいものだ。




花子は戻ってきてくれたけれど…
でも、それは俺の腕の中じゃなかった。





「ルキさん、」



「そうだな、気になる。」




あれから数日…シュウさんは学校に来ていない。
普段なら無理矢理でも弟さん達に連れられてやってきて何処かで眠ってる筈なのに学校自体に来ていないのだ。


また以前の様に何か問題が起こって彼が裏で頑張ってくれているという訳でもないようで
今までシュウさんに遊ばれ過ぎていたルキさんも気になっているようだ。



けれど何が原因で彼がこんな行動を起こしてるかもわからないので為す術がない。
ただこうして二人で並んで溜息を吐くばかりである。



けれどひとつ、ひとつだけ手掛かりはあると言えばある。




「ルキさん、あの…以前シュウさんに連れられた公園へ行きたいのですが…」



「……何かあると思うんだな。分かった、俺も行く。」



以前シュウさんに連れていかれた沢山の場所の中でも特に既視感の強かった公園へ行きたいとルキさんに提案する。
きっと…きっと一番気になったそこへ行けば何かあるはずだと、思ったのだ。




そっと彼に手を取られる。
以前シュウさんに握ってもらったものと当たり前だけれど違うその感覚。
けれどシュウさんに手をとられたあの日、その感覚が何処か懐かしく感じていた。



シュウさんは一体何者なのか。



私がまだルキさんと付き合いだして間もない頃、ダンスパーティーへ誘ってくれたのが初めの…はず。
けれど今思えばあの時からおかしかった。
最初から私の名前を知っていたし、どうしてだか私に自信を持たせようとした言動ばかり…




『アンタは自分の魅力を知らなさすぎ、自虐すぎ、卑屈。』




私の魅力、
あの時あるはずなかったもの…なのにシュウさんはそう言った。



それから幾度となくどうしてだか私を救ってくれて、守ってくれて…
正直彼がそこまでする理由が分からない。
これは自虐ではなくて、見ず知らずの私にそこまでする理由なんてないはずなんだ。
なのに…




「どうして…シュウさん。」



「花子、ついたぞ…、」



「あ、」




ルキさんの言葉に思考を現実に戻し、彼を見やればじっとある場所を見つめていたので不思議に思い私も彼にならってそちらを見てみる。
そして視界に入ったのは懐かしく感じてしまう金髪のふわふわした頭だった。




「花子………ルキ、か。なに?ここまで二人で来たのか?…ちょっと、ここは二人で来てほしくなかった、かも」



「シュウさん?」




どうしてだかその公園にはぽつりと独りきりでシュウさんがたたずんでいて
こちらに気付いたシュウさんは普段と同じように眠そうなまま、けれど何処か意地悪そうに微笑んだ。
あれ…?シュウさん、元に戻ってる?



「シュウさん、あの…」



「花子、そろそろ誤魔化しきれなくなってきたな。俺も…勇気、出そうか。」



苦笑して一歩一歩こちらに近づいてくるシュウさんに対して
どうしてだか私は繋がれたルキさんの手をぎゅっと強く強く握ってしまう。
以前まで知りたかったシュウさんの秘密…なのに何故か今、私の心臓は驚く程早く脈を打っていて全身から嫌な汗が出てしまっている。




どうしてかわからないけれど『聞いてはいけない』と警報がガンガンと頭に鳴り響いてしまう。





「逆巻シュウ、貴様…一体何を隠している。花子とどういう関係なんだ。」



「そうだな、花子の最愛のお前にも知る権利はある。…認めたくないけど。」





ルキさんが必死に縋りつく私の手をぎゅっと握り返してくれてそのまま一歩、私の前に出てシュウさんに問いかける。
すると彼はまた、また悲しそうな笑顔に変わり、静かに瞳を閉じて小さく息を吐いた。




「花子、結婚式もどきのときも言ったけど…おかえり。」



「シュウさん?」




まただ…また、彼は私に「おかえり」と言う。
その意味が分からず首を傾げるしかないけれどそっと瞳を開けた彼は地面を見つめたまま、淡々と話を進めてしまう。



「ルキの愛に包まれた花子の顔…すごく良かった。あの顔は俺もさせてやる事は出来なかったな…」



「貴様…一体何を、」



「花子、俺は」



謎めいた言葉に戸惑いを隠せないルキさんが言葉を挟もうとしたけれど
シュウさんはそれをハッキリと大きな声で遮った。
そして顔を上げた時、バチリと私と視線を合わせ、揺れる瞳で
悲し過ぎる表情で辛すぎるタネアカシの言葉。





「俺は花子を一度壊してる」




瞬間、様々な場所の曖昧な既視感は確信に変わり
何も考えれなくなった頭に怒涛のような過去が流れ込んできた。



誰もいない公園
人気者になりたくて一生懸命歌う私
観客のいない舞台
笑って泣いたあの日…



以前見た夢が、記憶がぐるぐると私を追い込む。
嗚呼、シュウさん
貴方…もしかして、




くらくらした視界に映る彼の唇は「ごめん」と、酷く苦しそうに動いていた気がした。



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