102:歪んだ願い


ある日、すげぇ気まずそうなコウと、また何か吹っ切れたような顔のルキが帰ってきた。
瞬間、嗚呼…またコウが余計な事でも言ってルキと花子に何かあったんだと思ったけど…





ルキのその穏やかな表情を見て
また……きっと二人はいい方向に向かったんだなって、少し…安心しちまった。





「にしても山あり谷ありすぎだろアイツ等……」




雨の降る夜、ぼんやりと暇を持て余しながら呟いた自分の言葉に笑っちまう。
ルキが花子をこの屋敷に招待してから色々あった……っつーかありすぎた。
花子もルキもああいう性格だから、お互い想いあってる筈なのに何かとすれ違う…けれどそのすれ違いが酷くもどかしくて
俺もコウもアズサも黙ってみてられねぇ……それに





「ったく、ちゃんと幸せに過ごせっつーの」





少し雨音が強くなりだしたのを耳で確認しながらのぼやきはきっと今一緒にリビングにいるコウも同じ考えだろう。
あいつ等を見てるとほっとけなくて……それでいてどうしてか本当に幸せになってもらいてぇと心から思えて
あの二人の穏やかな笑顔を見てるとその想いはもっともっと強くなって、俺もコウもアズサも……てめぇの事は二の次であの二人の事を考えちまう。





「ユーマ君は?ユーマ君も書いてたでしょ短冊……なんて書いたの?」




本当は今年もルキと花子に分からないように笹の一番てっぺんに飾るはずだった短冊をじっと見つめてたコウが笑顔のまま俺に聞くけど…
んなもん分かってんだろ。俺もお前と同じように花子とルキの願い事書いてんよ。





「あ?俺?あー……なんつーか前と似たような感じだな」




それだけ言葉にするとコウも同じことを思っていたのか、何故か俺達はルキと花子の事を願っちまうとぼやくが酷く満足気
いつからか、俺達はあの二人の幸せが自分等の幸せの様に感じていたようだ…





こっそりと7月7日…雨で中止になった七夕の日からポケットの中に入れっ放しだった短冊に手を入れて触れる。
前と似たような内容だけどそれはちっと違う。





“ルキと花子、二人が死んでも幸せだと笑ってられますように”




きっと花子が俺達より……ルキより先に逝っちまう
それはもうどうしようもない事実で…あの日、気まずそうなコウと帰ってきたときルキに何があったかは全て聞いた。
ルキも花子もそれを受け入れて最期まで一緒にいる覚悟を決めたんならもう俺が願える事なんざこんなもんだろ。





最期の最期まで、二人で幸せに…
花子が逝っちまってもルキがアイツの墓の前で“幸せだった”と…いや、“幸せだ”と言えるように
今を精一杯サイコーな気分で過ごしてほしい…





俺もコウも、思い思いに穏やかにぼんやり考えを巡らせていれば
玄関先の大きな音に意識を現実へと引き戻された





そして雨にまみれたアズサの言葉を聞いて
ぐらり、俺の七夕…バカップル共に叶えてもらうはずだった願いがグラリ
大袈裟に揺れて歪んだ気が、した



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