104:絶望の選択肢


真っ白になった視界
一体何が起こったのか分からなかった





只……隣にいたルキさんがとっさに私を庇おうとしてくれていたのは
ぷつりと消える意識の前に鮮明に覚えていた






「…………あれ?」




ゆったりと目を醒ませばそこは随分前に居た場所と似たような所でぼんやりとあたりを見渡す。
嗚呼、そうだ…一度私が何故か分からないけれどあの綺麗な小森さんと間違えられてスバルさんとこういう場所に閉じ込められたんだっけ。




未だにはっきりしない意識のままゆっくりと起き上がりもう一度周りを見渡すけれど
酷く暗くて少し遠い場所はあまり見えない。
けれど目の前に見覚えのある鉄格子が見えたのでここは紛れもなく牢屋の中だろう。




何だろう、また私は小森さんと間違えられてしまったのだろうか。



そんな呑気な考えを巡らせていたけれど
何処からか渇いた靴音が近付いてきて、その主が口にした言葉で今度ば間違いではないと思い知らされる。




「おやおや、漸くお目覚めですか花子……さん?」



「え、あ、えっと」




響き渡る穏やかな声色
それはあの学校に通っていただ誰もが知っているであろう有名な人物の声で…
どうして彼が此処に居るのかとか、なぜ私が今牢屋の中にいるのかとか
……ルキさんは何処に居るのかとか



色んな疑問が溢れて言葉に出来ないでいるとその声色は靴音と共に更に近付いてきて
真っ白な手袋をつけた手が格子を握って漸く彼の姿を明確に捉える事が出来た




「逆巻……レイジ、さん」



「おや、私の名前をご存じで……光栄ですね」




漸く見えた彼は流行り私の学校では例に漏れず有名な逆巻六兄弟のひとり
確か……次男の、逆巻レイジさんと言う人。
ニコリと微笑むその笑顔は何処か今まで直接お会いした人の誰よりもシュウさんに似ている気がする。




「あの、私」



「ええ、ええ…少し薬が効きすぎて数日眠っておられたのです。おはようございます。」



「お、おはようございます?」




取りあえず今事情を聞くことが出来るのが彼しかいないと判断してひとつずつ疑問を紡ごうとしたけれど
酷くマイペースな彼に言葉を遮られてしまって思わずその言葉に相槌を打ってしまう。
そうか……私薬で何日も眠って…………薬?





未だによく回らない頭でゆっくりと考えを巡らせてふと気づいた彼から出た物騒な単語に
ゆっくりではあるが思考が徐々に鮮明になっていく
と、同時に小さな窓から入ってくる先程まで雲で隠れていたであろう月の光で鮮明になってくる周りの景色




「あ………」



「貴女は彼と、とても深い関係の様ですね……色々調べさせて頂きました」




「嘘、」




「まさか貴女の幸せを自身の幸福と感じるまで腑抜けになってしまっているとはね……ええ、ええ…気高いヴァンパイアにそのような感情は不要」



「……っ、」




月明かりによって鮮明になる景色に目を見開く
先程まで見えなかった自身が幽閉されている牢屋の奥に見えた人影
嗚呼、そんな……どうしてこんな事




「花子さん……私はね、貴女をとても愛おしく思いますよ」



「レイ、ジ……さ、どう、して」



「だってあなたは彼を壊せるための重要な材料だ………そうでしょう?」




カタカタと体を震わせながら必死に訴える
けれど彼はそんな私に構わず酷く穏やかに、淡々と言葉を紡ぐばかり
何を言っているんだ、私は誰を壊す材料なんだ。一体どうしてこんな事を…




身に覚えのない事ばかりで取り乱しそうになる気持ちを必死に抑えて
目の前の彼に問いただせばその真っ赤な瞳はグニャリと歪み背後の窓から完全に雲が晴れた満月が顔を出した




「貴女の幸せが彼の……私の憎い兄の幸せと言うのなら壊して差し上げましょうね」




完全に顔を出した満月に照らされた牢獄の奥
横たわる最愛……傍には銀色に光るナイフ




「満月の夜、渇きに満ちた吸血鬼と貴女と銀のナイフ……お分かりですね?どう転んだとしても貴女方には悲劇しかご用意しておりません」




彼のその残酷すぎる言葉に震えが止まらない
きっと今日を乗り切っても彼は私とルキさんを此処から出さない気だ。
そしていずれ選択を迫られる……二択




嗚呼、どうして……どうしてこうなったんだ。




「さぁ、絶望なさい。愛しい私の道具」




その言葉がまるで私には死刑宣告に聞こえた。
嗚呼、そんな………





最期まで貴方と一緒に笑ってと誓ったのに
こんな……





神様、これは少しあんまりじゃないか





彼らに出会ってから感じる事の少なくなっていた大きな絶望がのしかかった瞬間
ゆっくりと渇ききった瞳が開いてコチラを捕らえた。



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