105:消えた願い


花子は少し血が人より変わっているだけで「特別」と言う訳ではない。
家畜の様にイブでもない彼女は本当に只の人間で、きっと俺を残してすぐに死んでしまう。
けれど……




けれど俺はそんなお前の傍に最期まで寄り添いたい…そう思うんだ。






七月七日……
あれだけ楽しみにしていた七夕は生憎の雨で…酷く残念そうに窓から外を見上げている弟達に
俺と花子は顔を合わせて小さく苦笑を漏らしてしまった。




嗚呼、きっと以前は砂遊びの時に言っていたようにこっそり俺達の事を願ってくれていたから
今年こそは自分たちの願いを叶えたかったのだろう…
それは俺も同じで……




七夕の日…
あいつらに隠れて飾るはずだった「コウ、ユーマ、アズサ三人ともずっと幸せに笑っていられますように」と言う願い。
きっとこれが見つかってしまったら三人とも、また自分の事を後回しにしてと怒りそうだから隠れて願いたかった…
いつだって俺と花子の幸せを優先してしまうあいつ等には言われたくはない……そんな風に思う…なんて。




きっと自惚れで無ければ弟達が笑顔で居るには
俺と花子が幸せになるのが大前提なんだろうけれど……それでもいつも俺達を見守ってくれてる彼らの笑顔を俺も願わずにはいられない。




別に俺自身を蔑ろにしてる訳じゃなくて…
ただ、純粋に自然とこの願いが浮かんだんだ。




その為にも、俺はあいつらと…そして花子を
これからもまだ頼りないかもしれないが、この手で包み込んで守っていきたいと思っている





大丈夫、彦星等に願わなくても
この願いは俺が自身で叶えればいいだけだ。




後ろ手に隠していた短冊をこっそりポケットにしまい花子をちらりと見つめれば
彼女も同じく急いでサササと何かを隠したけれど、きっとそれは俺がしまったもとの同じ短冊なのだろう…






少し、彼女の願いが気にならないと言えば嘘になってしまうかもしれない





花子………お前は俺と最期のその日まで一緒に居ると誓って
今年は何を願うつもりだったんだろうか…









「……………?」





酷く体が怠くて目を開ける気も起きない…
嗚呼、俺は一体何を…………





意識が徐々に戻るに連れ、記憶が蘇り
すぐに頭に過るのは彼女の安否





しかしそんな考えも掻き消されてしまう程の酷い渇きが全身を襲いゆるりと瞳を開ければ
視界に入ってきたのは……






「花子…………?」





酷く絶望したような表情の最愛と視界の端にキラリと光るもの…
状況がうまく把握できないがひとつ……ひとつだけ言えることは







嗚呼、目の前の人間の血を吸い尽したい







ぷつり






あの日願う筈だった願いが
跡形もなく消える音がした










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