111:仕方ない願い


「二人とも、似てますね」




ぽつりと呟いた言葉にチラリと視線を寄越したのはこの騒ぎの黒幕の彼だった
ギリギリと首を締めあげられながらもその瞳は嘲笑の色を纏い私を射抜いて言葉を紡ぐ





「はっ、我々が何に似ていると?もしや貴女と…なんて言う筈はありませんよね?逸れこそ笑い話だ」




絞り出されたようなその声に私は静かに首を振る
違う…シュウさんもレイジさんも私と似ていると言うか…もっと広く、広く




自身を見下してきた相手が同じ場所へ堕ち、自身の命さえも奪われようとしているのにそれが嬉しくて愉快で溜まらないレイジさんも
ことごとく全てを奪われ尽くし、もう何もかもが本当にどうでも良くなり自身の命諸共全てを終わらせようとするシュウさんも
私と言う個人ではなくて……




じっと……じっと二人を見つめたまま
ゆっくりと口を開けて落とす言葉は私の本心
嗚呼、貴方達は本当に……





「レイジさんもシュウさんも、まるで人間そのもののようです」




瞬間、私を嘲笑っていた彼はシュウさんを突き飛ばし、そのままぐっと手を伸ばして格子の間から私の胸倉を掴見上げた
その目は先程のモノではなくて憤りの色と嫌悪の色で染まっていた。





「我々が……私が人間如きと同じ?訂正なさい……それだけは許さない」




ギリギリと締め上げられて息が苦しい
後ろで心配したルキさんの声が聞こえるが私は訂正する気はない。
だって……だって今の貴方達はどう見たって人間そのものだ






頑なに口を噤んでいれば小さな舌打ちと共に開かない筈の牢屋の入り口が開かれ
そのまま無理矢理外に引きずり出されてしまう。
彼の予想外の行動に驚いて固まってしまうがそれ以上にその目が本当に冷静さを失っていて少し怖い。





「いいでしょう…その無礼な口、今すぐ私自らその命諸共塞いで差し上げます」




ギリリと再度締め上げられ自分の足が宙に浮くのが分かる
嗚呼、酷く苦しくて怖い…今更だけど、
そんな感情にぐるぐると支配されていれば不意に聞こえた声に思わず胸を撫でおろした






「自身の地雷を踏まれ、冷静さを欠いてしまうんだ。花子に人間らしいと言われても否定できんぞ逆巻レイジ」





「ルキさ、」




私を掴み上げていた手を無理矢理引き離してくれたのは先程まで少し弱気だった最愛
その反動で床に倒れ込み視界に入ったのはレイジさんらしからぬ開けっ放しになっていた鉄格子の入り口
私の言葉によっぽど動揺したのだろうか……





じっとそんな二人を見つめていればルキさんはもう大丈夫だと言わんばかりに微笑むけれど
でも今は渇きでいつもより弱っている彼と、もう殆ど動く事の出来ない私…それに完全に自分を見失ってしまっているシュウさんしかいないのにどうしてそんな風に微笑むことが出来るのだろう
二人でなんとか外には出れたものの、事態は一向に好転してないじゃないかと、さっきまで少しばかりポジティブだったはずの思考はすっかり元に戻ってしまって困惑を隠せない。





すると私の困惑の予想通り、ルキさんに捕まっていたレイジさんがいとも容易くその手を振り払い
大きな声で笑い始める。それこそ先程の自身の動揺を隠すように大きく、大きく





「は……はは、はははは!この状況でよくも偉そうな事を云えるものだ!!多少の計画は外れましたが未だに貴方方の命は私の手に…っ」





「そうだろうか?俺も一瞬余裕を無くして悲観的に捉えていたが無神は逆巻と違って絆が強くてな……さて、俺達が此処に閉じ込められて何日が経っただろう」




彼の言葉に全く動じず、自身あり気に答えた彼の言葉
同時に聞こえる複数の慌ただしい足音…嗚呼、この足音聞き覚えがある
今となっては酷く懐かしく感じるその音…




「俺はいつだって最愛の花子が自身を大事にしない、無茶をする、危なっかしいで目が離せない」




「る、ルキさ」




突然紡がれる私に対する日々苦労しているような言葉に
思わず顔を赤くして反論してしまいそうになる。
わ、私これでも結構初めと比べてば随分とマシになっていますよルキさん




ちらりとそんな彼が私と少し開いた扉を見つめ小さく笑って
ゆっくりと、?みしめるように言葉を続けていく





「しかし俺も中々自分より誰かを優先してしまう癖があってな……だから俺と花子を見守ってくれる過保護な弟三人には毎回手を焼かせているんだ」



その言葉と同時に少しだけ開いていた扉は勢いよく音を立てて開かれて
入って来たのはもう、本当に、懐かしく感じる三人の心配そうな、必死な…そんな表情をしている三人だった





「コウさん、ユーマさん、アズサさ……っ」




三人の表情を見るや否や安心してしまったのか、ぶわりと一気に涙がこぼれてしまう
嗚呼、来てくれたんだ……私と、ルキさんを、ずっと探していてくれていたんだ





かさり、
七夕の時に飾るはずだった短冊…
折角だから記念に取っておこうとしまっていたものがはらりと不意に床に落ちてその存在をありありと示す







『これからも、コウさん、ユーマさん、アズサさん、ルキさん……皆で一緒の時間を過ごしたいです   花子』






今までの騒動で半分以上破れてボロボロになってしまっていた短冊
けれど最後の端は破れずに、どうやらギリギリ空の上の恋人達が叶えてくれたようで





最後の最後、
私の願いは仕方ないからと、溜息交じりに
織姫様と彦星様が苦笑交じりに拾い上げてくれた気が、した



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