32:サヨナラ一週間


ざぁざぁと降り注ぐ雨は
次第に小雨へと変わり、気が付けば快晴に…




それでも時折雨が降れば
優しくて小さな傘が俺を包み込んだ。




とても幸せな筈なのに
どうしてだか心のどこかに腑に落ちないところがある。
何だろう…




まぁ今はそんな事考えてる余裕はないのだが。





「おい花子、いい加減泣きやめ諦めろ。あんた大人だろ?」




「お、大人だろうと何だろうとこればかりは…ぐすっ。そ、それに前シュウしゃんが我慢するなって…割り切るなって言って…うぅ」




「いや、言ったけどこれは流石に割り切れ。」




目の前には床に崩れ落ちてべそべそと泣き喚く最愛。
すぐ傍には大きなキャリーバッグ。
そしてそんな俺達を遠巻きに笑いこらえながら見つめる三つ子に静かに青筋を立てる。



「仕方ないだろ、仕事の出張なんだから。…一週間くらい我慢しろ馬鹿。」



「これまで散々リアルタイムで可愛い天使のご尊顔を拝見するという甘やかされた待遇をしてきた私には死刑宣告と同じなんですよシュウしゃん!!病欠取りたいです!!!」



「ダル男のごそんがん!!!ぶふぉ!!!」




ぶわっと大粒の涙を零しながら更に喚く花子に対して遂に限界がきたのかアヤトが声をあげて笑ったのでツカツカと近付き、その空っぽの頭を思いっきり殴りつけた。


…まぁ笑うのも分からなくはないけど。


なんせ180cmの男で吸血鬼の俺の顔が可愛い天使とか言われてるんだ、俺だってこれが他の奴なら腹筋持ってかれてる。



「はぁ…花子、ちゃんと毎日電話してやるから。な?」



「…………シュウしゃんの寝息は聞けないじゃないですか。」



「しゅ、シュウの寝息…って、テディ…しゅ、シュウの寝息だって…っっ、ふ…ふは…っ」



仕方なしに妥協案を提案すればとんでもない反論を喰らって思わず言葉に詰まる。
…寝息聞きたいって。さてはコイツいつも俺が寝た後こっそり忍び込んでじっと俺の寝顔凝視してるな。



そして花子の事だからなにもしないまま只々ホントに俺の寝顔と息遣いを堪能して部屋を出てるに違いない。
どうせなら襲うくらいしろ、馬鹿。



そして次にカナトも限界を迎え、テディをこれでもかと言うくらい強く抱き締めながら
必死にそれでも笑いをこらえているがもはやその体は携帯のマナーモード以上に激しく震えてしまっている。



くそう…花子の所為でなんか三つ子の俺に対する印象が滅茶苦茶可哀想で嫌だ。



「じゃあどうすんの。花子は社会人なのに俺と一緒に居たいからって仮病使って仕事さぼるの?」



「仮病じゃないですれっきとした恋の病末期患者ですよ!?お薬はシュウしゃんの愛!!はっ!でも実際に愛されたらきっと死んじゃう!!!嗚呼逆巻シュウとは諸刃の薬でしたか!!」



「花子ちゃんの病が末期すぎてもう救えない!!しゅ、シュウが愛され過ぎちゃってる…あっはははは!!!」




最終的に彼女の社会的責任を利用しようと言葉にしてもそれさえも馬鹿みたいな理由で反撃を喰らって
今度はライトがソファでじたばたと笑い転げて大爆笑だ。


流石にこれ以上三つ子に自分がでろでろに愛され過ぎてる場面は見られるの恥ずかしくなって花子を無理矢理立たせて
傍にあったキャリーバッグを引っ張りながら彼女をぐいぐいと玄関先まで強制的に引きずっていくとまるでガキのような断末魔が屋敷中に響き渡る。



「捨てられる!!!シュウしゃんに捨てられる!!!!この前あんなに甘えてきてくれたのにすぐにツンに移行とか流石美しい吸血鬼様はやる事が違う!!!」



「ダル男が甘え!!!?」



「おい花子黙れそして捨てないし一週間くらい我慢しろ馬鹿。」



じたばたと大暴れしながらの爆弾発言に食い付いたアヤトがぎょっと俺の顔を覗き込んだからもうこっちは顔面沸騰するくらい熱い。
そういうのは普通黙ってるだろ馬鹿。なんで言っちゃうわけ?


大人なんだから察しろと言いたいがきっと俺と離れてしまうのが余りにも悲しくてそんな余裕さえもないのだと思うと怒るに怒れない。




「花子、一週間だけだから。大丈夫だから…捨てないから。」



「604800秒もシュウさんから離れるとか…ぐすっ」



「…………計算早いなあんた。」



未だに泣き止まずにそんな事を言ってしまう花子に苦笑しながらも
半ば強制的に行ってらっしゃいのキスを落とせばようやく涙は止まったがその表情は未だに「会社潰れろ」の一択だ。
全く…どうやら俺は相変わらずヤバい位最愛に愛されまくっているらしい。




「いってらっしゃい…ええと、ちゃんと仕事終わってから帰ってこいよ。」



「ぐす…っ、いってきます。」




ホントは俺だって淋しいんだから出来るだけ早く帰ってこいって言いたかったけど
そんな事言ってしまえば絶対もうこの場から動かないだろうし即座に退社届けとか出してしまいそうだったのでぐっとこらえた。
何だかそう言うのは人間社会的に、というか花子的に良くないんじゃないかって、思ったから。



とぼとぼと重すぎる足取りで出張へ向かう最愛の背中を見送ってひとつ息をつく。
全く…これから一週間、どうなるのだろうか。





(「…………おい花子、2歩ずつこっち振り向くな全然進んでないじゃないか。」)



(「だってシュウしゃんを置いて行くなんて淋しすぎてうわあああん!!!!」)



(「………リムジンでギリギリのとこまで送ってやるから、来い。」)



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