37:雨宿り、しませんか?
久々にスッキリとした気分で自室へとようやく戻った。
部屋に戻る途中レイジに見つかってうざそうに舌打ちされたけれど、その後笑ってたのは見逃さない。
「花子…、」
そっとベッドに体を降ろしてやってまた彼女が目を醒ますのをじっと待つ。
今回は以前彼女が死にかけたときと比べて酷く心は穏やかで自然と顔がゆるんでしまう。
だって花子が目覚めたときに用意している言葉はさよならの言葉じゃないんだ。
「…、ん?」
「あ、おきた。」
ゆっくり目を開けた彼女の顔を覗き込めば未だに目を醒まし切っていないのかぼーっとしてる。
こんな無防備すぎる姿は今まで見た事無くてついつい小さく笑ってしまった。
「シュウさん、」
「ん?」
「夢を、見てました…」
「どんな夢?」
いつもなら俺の顔を間近で見た瞬間ぎゃんぎゃん叫ぶくせに
今は只々嬉しそうに微笑んでる彼女に問いかける俺の言葉は自分でも引いてしまうくらい優しくて甘い。
彼女が騒がない事をいい事にそっとその小さな手に指を絡めるときっと未だ半分夢の中なのだろう…
普段なら絶対しないはずなのに彼女もそっと指を絡めて来てくれて、きゅっと少しだけ、強く手を握った。
「シュウさんが誰かから助けてくれる夢です。」
「……ふーん」
「それから、シュウさんが私の為に王様になるの…」
「…そっか、くくっ」
花子、それ…夢じゃなくて現実だから。
堪え切れない分の笑いが漏れてしまいくたりと首を傾げる彼女の唇をそっと塞いだ。
するとぼんやりしてたその瞳はみるみるはっきりしたものへと変わって、それと同時に体の温度もびっくりする位急上昇し始める。
あ、やばい…完璧に起きた。
「しゅ、シュウしゃ!?びゃ!!!え、ちょ、私は仕事で出張、シュウしゃんが淋しくて天使でいやいつも天使ですがていうかキスうわあああ!!!!」
「落ち着け。まず落ち着け。」
唇を離した瞬間懐かしすぎる煩い叫びが部屋中に響き渡ったので
俺も変わらず苦笑とため息交じりに花子を落ち着かせようと奮闘する。
うん、こういうの…ホント久々な気がする。
完全に起きたとはいえ、やっぱり何処か心配だったので
じたばた大暴れする彼女をベッドに抑えつけ、ぎゅっとそのまま強く強く抱き締めた。
嗚呼、久しぶりに俺の事が好きすぎてツラい花子に会えた。
「シュウさん?」
「花子、あのな?事後報告で悪いんだけど…聞いてくれる?」
俺の様子が普段と違ったのを感じたのか先程まで暴れてたくせに
突然大人しくなってぎゅっと俺の背中に腕を回してくれた花子に少し嫉妬。
くそ…今回は俺が完璧に花子を包み込んだ気でいたけどやっぱりコイツはどこまでいっても大人だな。
こうやって自身の動揺よりも俺の事を何よりも優先してくれる。
そっと少しだけ距離を離してじっと心配そうな彼女の顔を見つめる。
馬鹿だな…さっきまで自分が殺されそうになってたのに、俺の心配とか…ホント花子は馬鹿。
でも、そんな花子がだいすきだ。
「えっと、まずどこから話そうか…」
少しばかり弾んだ俺の声に悪いニュースではないのだと確信した彼女の表情は緩んだけれど
もしかしたら相当悪いニュースかもしれないぞ?
出張前に花子は恋の病の薬は俺の愛だけど、諸刃の剣って言ってた。
確かにそうかもしれない。
だって現に花子は俺と恋人同士ってやつになってから何度も命の危機になってしまってる。
「取りあえず、まず初めに言うけど…」
小さく咳払いをしてもう一度その瞳を射抜く。
花子には申し訳ないが、正直もう何度命の危機にさらされようが離してやるつもりはない。
というか俺が王になったらもう二度とそんな事、起こさせないけど…
なので彼女には勝手ながら、諸刃の剣を甘んじでその腕に抱いてもらおうと思う。
「今日から花子は俺の恋人じゃなくて妻な。」
「…………………え?」
俺の言葉に流石に驚いたのか、ビシリと固まってしまった花子にもう限界と言わんばかりに吹き出して
そのまま彼女を抱き締めてベッドに雪崩れ込んだ。
…今は俺のこんな行動に喚くだけの余裕もないみたいだ。
「花子、俺はもう傘はいらないんだ。…だからお願い、俺と一緒に雨宿り、してくれないか?」
彼女に今までで一番大きな我儘をぶつけてみる。
緊張しないって言えば全くの嘘になるけれど、動揺はしたとしても俺の事が大好きな花子が断るとは思えないので
どんだけ自惚れてんだ俺はと思ってしまうが仕方がない、だってホラ…
「んんん!シュウしゃんがそうしたいなら私は雨宿り、ゲリラ豪雨の中だろうが台風の中だろうが余裕でお供します!!」
「ふはっ…そっか、よろしく。」
現に花子には『否定』の二文字は存在しなくて、
こうして俺の申し入れを容赦なく、斜め上まで肯定してしまうのでもう笑いが止まらない。
どうやら俺は花子と一緒に単なる雨どころか、ゲリラ豪雨、台風までも一緒に過ごすことになりそうだ。
「ああもう、花子となら民衆に革命起こされたところで余裕な気がするから怖い。」
小さな俺の言葉はやっぱりすごく浮ついてて幸せそうだ。
うん、こういう俺…嫌いじゃない。
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