38:望んだ色
花子をこれからずっと傍に置いて、守って愛するって誓った。
誓ったのはいいけど…うん。
こうなる事は予想はしてたけどな。
「ああああシュウしゃん本日も麗しい可愛い綺麗しかも可愛い性格も相まってもはや天使あいしてるうううわああああ」
「そう思ってるならこっち来い馬鹿花子。」
部屋の隅で相変わらず俺への大賛辞を掲げる彼女に俺はベッドで不満顔。
対して俺が愛し、守る対象の花子はご機嫌…ご、ごき、ご機嫌か?これ。
部屋の隅でぼろっぼろ涙零してクッション抱き締めながらこっちずっと見てるけど…
クッション、クッション離してやれ。何だかグロテスクな形に曲がってるから。
「ったく、いつになったら花子から来てくれるんだ。」
「あああああ来た!!!こっち来ちゃったうわああああ好きいいいい!!!!」
長い溜息を吐き、ベッドから降りて俺の事が大好きすぎてツラい最愛に歩み寄る。
すると花子に抱き締められてるクッションが悲鳴あげてるんじゃないかって錯覚を起こす位更にぎゅうぎゅうとそれを抱き締めてしまう彼女に苦笑。
ていうか…うん、今思えば俺は結構初めから花子に触れてもらいたくて自分からこうして動いてる気がする。
「花子、」
「んんんんシュウしゃ…」
「はは…っ、クッションじゃなくてこの腕は俺を抱き締めるものだろ?」
すぽんっと腕の中からクッションを取り上げると俺への愛情のはけ口がなくなったのかバタバタと何かを抱き締めようと探す腕の中に自ら入り混めば「びゃぁぁ!?」とまた聞こえる断末魔。
ううん、これが続くと俺はいずれ花子と一緒になった後、妻を毎晩虐待しているのではないかと誤解を受けかねない。
目茶目茶愛しまくってるのにそんなの心外だな。
「ほら、クッションみたいに抱き締めて?」
「うええああああて、天使抱き締めろって言うんですかシュウしゃんそんなに私を殺したいんですか!!!」
「そうじゃないけど…ホラ、」
未だに抱き締めてくれないまま固まっている花子に痺れを切らせてその手を取って自らの体に手を回してやる。
するとまた変な断末魔が聞こえたけれどその腕が離れることはない。
うん、花子は俺が好きだけど好きすぎて自分から触れられないだけ。
キッカケを与えてやればこうして離さないでいてくれるってこの長いようで短い時間で俺も学んだんだ。
「俺は花子を殺したいんじゃなくて、花子に愛されたいんだ。」
「こんなにも愛してるのに更に求めるんですか!!!?」
「ああ、俺は強欲だから。」
俺の言葉に対して心外だと言わんばかりに反論する彼女にまた苦笑。
だって仕方ない。
最愛には底が見えない位まで愛されたいって思うのは必然だと思うし、それに花子の愛し方じゃまだ足りない。
「花子、俺に触って?俺を愛して?そして俺の全部を花子のものにして?」
「シュウさ、」
「大人な花子だから…“天使な俺を独占したくない”なんて、そんな綺麗事言わないよな?」
そっと恐る恐るだけれど優しく触れてくれる暖かい手に目を細める。
いつだって俺を大好きで、天使だ神だ妖精だって叫び散らす花子。
でも彼女は一定の距離は保つけれど遠くへは行こうとはしなかった。
それはつまり、そう言う事だろ?
トクベツをくれたと言うことは俺からもトクベツが欲しいって事だ。
「な?花子…ホラ、もう俺は天使のままでいいから。そんな天使を独り占めしなよ。」
「何なんですかシュウしゃん今日は一段と可愛いです私もうホント失神しそうです助けてください。」
「はいはい、可愛い可愛い。だから可愛い俺が悲しまないように頑張って正気保て、失神なんてするな。」
ぎゅうぎゅうと俺を抱いている腕に力がこもる。
少し、苦しいけれどでもこれは今の花子のときめきまくってる胸の痛みよりかは全然マシなんだろうな
なんて…少し自惚れた考えがよぎって顔を緩めてしまう。
「ホラ、花子…俺の事、奪ってよ。」
「しゅ、しゅ、しゅ、しゅ!!!」
「ふは…っ、だいじょーぶ。覚悟は出来てる。」
俺に悶えすぎて「しゅ」しか言えなくなってしまった彼女を笑ってその言葉の真意に応える。
ああ、遂に俺も彼女の「しゅ」だけで意味を汲み取れるまでになってしまったか。
ずいと彼女と鼻が触れ合いそうなところまで顔を持っていって静かに瞳を閉じる。
大丈夫、覚悟はもう決まってる。
花子を親父から取り戻したときにそんなの…
俺は花子を永遠に傍に置いて愛する為ならなんだってするって、決めたから。
ふわりと両頬が暖かく、柔らかなものに包まれる。
今か今かと待ち望むけれどやっぱりすぐにはいかないみたいで暫く何も起こらないこのお預け状態にもう何度目かわからない苦笑が部屋に響く。
「花子。はやく。…それともアンタは焦らしプレイがお好み?」
「シュウしゃんとならばそれもやぶさかではない!!!」
「ばーか。知ってる。俺の事大好きだもんな。…いいから、ん。」
目を閉じたままそんなふざけた会話。
そしてまた暫くの沈黙だけれど…今度はもう何もしゃべらない。
只々ひたすらに俺は待っている。
ちゅっ
ようやく唇に触れた柔らかくて温かで…それでいて甘いそれに
じわりと胸の奥で何かが溢れて零れ落ちる。
静かに視界を解放すればゆでだこよりも真っ赤な花子の顔。
ぶるぶると震えながらこっちをじっと見つめてた。
「ん、ありがと。」
付き合って初めて…
初めて彼女から唇にキスを貰えて嬉し過ぎてもう顔がゆるみまくって仕方がない。
別に体を繋げた訳でもないのにようやく自分が花子のものになれたようなこの満足感はなんとも言えない。
言えないけれど…ああ、どうにかして言葉に表したい。
ゆるゆるな表情のまま、すりすりと小さな手に擦り寄って言葉を並べて組み合わせる。
出てきたのは彼女に出会う前まで俺には無縁だって思えてた一つの言葉。
「…しあわせ、」
そんな俺の言葉に花子はどうしてだかすごく幸せそうに笑って
今度はビビリもせず、震える声でもなく
只々穏やかに自らそっと俺を包み込んで柔らかな声で俺にはよく分からない言葉を紡いだ。
「嗚呼、私の望んだ黄色です。」
花子の紡いだ言葉の意味は分からない。
分からないけれど…どうしてか、
彼女の望んだ色になれたのだと思うと
自身もしあわせに満ちて溢れて溺れてしまい、息が出来ない。
「花子、愛してる。」
心からの俺の言葉は花子にだけ届いて
部屋に溶ける隙さえ与えないまま、彼女の中に溶けて消えた。
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