40:しあわせ


「しゅ、シュウさん!失礼します!!」



「………失礼じゃないし。ていうかその態度の方がよっぽど失礼だろ。」




意を決したような言葉にあからさまに不機嫌を顔に出せばこの世の終わりのような表情になってしまう最愛。
相変わらず俺の事が大好きすぎな花子の世界は常に俺中心である。




「怒ってない。…怒ってないから。」



「は、はい。」




小さく溜息をついて別に怒ってないって事を教えてやればおずおずとこっちに寄ってきてくれる。
そして少しだけ沈むソファに俺は満足気に微笑んだ。
今、俺と花子は隣同士。二人掛けのソファに並んで座っていて互いの距離は大体10cm。
…ここまで来るのにどれだけ苦労したか。




傍から見ればこんな距離普通と言うか恋人同士ならもっとくっついてもいい気がするけれど
俺と花子からしてみれば大進歩。
いつだって俺の事が好きすぎて数メートル離れた場所から鑑賞されていた身としてはこの距離に感動して泣いてもいいレベルである。





「花子、今日も…な?」



「う、あ、はい…!頑張ってこの拷問に耐えますね!!」



「…おいなんだその拷問ってどう考えても愛情表現だろなんだよ花子は俺の事そんなにきら」



「あああああ美し過ぎる顔が近付いて…!あああああ助けて可愛い綺麗格好いいすきいいい」





彼女のぶっ飛んだ言葉に少しだけ早めの口調でまくしたてながらも顔を近付けると
やっぱり顔をヤバい位に赤くして喚き散らす花子に苦笑。
…だよな。嫌いな訳ないか。
そしてそのままあの日から…花子が俺の唇を奪ってくれたあの日から続けている花子曰く“拷問”って奴を開始する。



「ん…、…ど?平気?」


「…っ…っっ!」


「…そっか、じゃぁこれは?…んっ、」




ちゅっと可愛らしい音が響く度に俺の確認の言葉。
そして必死に首を縦に降る花子を確信してまた可愛い音が響き渡る。
花子を名実ともに俺のものにするって決めてから、やっぱりもっと花子に触れてもらいたくて強制的に開始した「キスに慣れる練習」。



最初はそりゃ頬にしただけで失神されてしまったけれど、今はようやく頬、額、瞼までなら顔は真っ赤にするけれど意識を保ってくれるまでになった。
ていうかまだ深いのさえしてないって言うのにこれとか…ある意味俺の方が拷問である。



「花子…今度はココ。」


「…っ!ちょ、ちょっとまって!!シュウさんホントちょっと待ってください!!」


「やーだ。大丈夫、また失神したら俺がベッドまで運んでや、」





ちゅっ



ふにふにと唇を弄んでやってそこにキスをと宣言すれば相変わらず慌ててしまう彼女を宥めようと言葉を紡ぐ途中で響いた可愛い音。
それは俺が任意にあげたものではなくて…
あの日以来二度目のそれに今度は俺が顔を赤くする番だ。
…不意打ちは卑怯だ馬鹿。



突然の出来事に固まってればおずおずと絡め取られた指から伝う暖かさと
再び襲い来る睡魔にふわりと体の力が抜ける。
嗚呼。やっぱり心地いい…これは何だろう。



「シュウさん…前、私に何かされると嬉しいって、言ってくれたから…私なりにですね、頑張って自分からシュウさんに触れようって…」



「花子、」



「シュウさんが大好きだから…シュウさんを悲しませるくらいなら私が頑張ればいいんですよね、こういうの。」



「………ん、」



何だかようやく俺の気持ちが彼女に伝わったみたいで今にも泣きそうだ。
そうだよ…こういうのはあんたが頑張ってくんなきゃダメなんだよ。
俺がいくら近付いても花子が離れていってるんじゃ距離は縮まらない…嗚呼、ようやく気付いてくれたんだな。





うれしくて、嬉しくて…しあわせで





そしてもう我慢できずにひと粒…ひと粒だけ涙を零した。
するとそれを見た花子が大慌てでぎゅっと俺を包み込んでくれたのでもう限界を迎えた俺の涙腺は易々と崩壊してしまう。
…昔はこんなに涙腺ゆるくなかったのに。これも全部花子が俺を溺愛してるせいだ。



「シュウさん、シュウさん大丈夫ですか?どうしました?結婚します?」


「ふは…っ何ソレ。でも…うん、俺が幸せになるのが全部花子関連だって思ってくれてるのは正解。」




ぎゅっと小さな体を抱き締め返して斜め上すぎる質問を投げつけてきた彼女に泣きながら笑う。
嗚呼、ふわり、ふわり。
花子に抱き締められてるから力が抜ける。
でも同時に抱いているこの身体からも力が抜けるのを感じた。



「花子…?」



「シュウさ…何でしょう。とても、眠いと言うか…心地いい。」



きっとその感覚は今まで俺が花子に触れられたものと同じもので
どう言う事だと首を傾げていればそっと俺の頬に手を添え、ゆっくりと慈しむ様に撫でながら紡いだ花子の言葉に俺の疑問は全て解消される。




「シュウさん……だいすき。」



「………なんだ、そう言う事か。」



単純すぎる答えに小さな笑いが止まらない。
なんだよそう言う事か…そりゃ眠くなるはずだ。心地いいはずだ。
そっとふわふわとした意識の花子の唇を塞ぐ。
抵抗も歓喜の雄叫びもなく、只々大人しく心地よさそうに受け入れてくれるその様は普段の花子に触れてもらってる俺そのものだ。




「ねぇ花子、だいすき。」



花子が俺に触れて心地よかったのは花子の俺への「すき」が溢れかえって直接俺に流れ込んで来ていたから。
そして次第に俺の「すき」も溢れてきて、こうして花子に直接流れているのだろう。
そんなの心地良すぎるに決まってる当たり前だ。



「どうして気付かなかったかな…俺は」



「シュウさん?」



「んーん。なんでもない…ほら、もっとぎゅってして?」



ふわりとした心地よすぎる感覚に溺れながらも、もっとこの「すき」を感じたくて花子に強請ればぎゅっと強く抱き締めてくれる。
でも全然痛くない。苦しくない。
ただ、ひたすらに心地よくてしあわせだ。



なんだよ…何がヒュノプスの生まれ変わりだ俺の馬鹿。
そんなすごい壮大な事じゃなかった。
只当たり前な事でそれでいて単純なトクベツ…
嗚呼、俺…りんごと傘以外にもこんなすごいトクベツもらってたんだな。




「花子…ありがとう…愛してる。」




遂に俺の「すき」に溺れてしまったのか安らかな表情で眠った花子にもう一度キスを落として俺も瞳を閉じる。
嗚呼、こうして互いの「すき」に溺れて眠るだなんて何て心地いい。
降り注ぐ雨から守ってくれて、一緒に雨宿りもしてくれて…
最後はこうして俺を溺れさせてくれる花子はホントに…もう、





「嗚呼、花子が俺の事すきすぎて…しあわせ」





視界を閉じて彼女の感触だけを感じて静かに呟いた。
ああもう、互いに溺愛しすぎてツラいっていうか…




しあわせ、だな?




―fin―



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