10:私専用眼鏡君
「あー…もう、本当に目が痛い」
「…このノートパソコン壊せばいい?」
「話が極端!」
シュウ君の物騒な発言に慌てて先程まで作業していたノートパソコンを閉じて抱き抱える。
すると彼はむっとした表情をしてそれを取り上げて空っぽになった私の腕の中へ滑り込んでくる。
…シュウ君は猫か何かなのだろうか。
「こんな機械抱き締めるなら俺の事抱き締めてて」
「くぅ!あ、相変わらず可愛い発言!」
私の腕の中でもぞもぞ動きながらそんな台詞。
照れるのを隠すためにわざとに腕に力を込めると何故か「ん」と色っぽい声が聞こえてきたので
慌てて離そうとすれば彼の腕につかまれてシュウ君を抱き締めていた腕を固定されてしまう。
あーもう本当にかなわない…
「それにしてもやっぱりPC作業キツいなぁ…PC眼鏡でも買おうかな。」
「PC眼鏡…?」
シュウ君の首が傾く。
あ、この態度は何かに興味を持った時に取る行動だ。
私はそんな彼に少しばかり苦笑して軽くその眼鏡の説明をする。
「PC眼鏡って言うのはパソコンとか携帯からでるブルーライトって光を遮断するレンズの入った眼鏡でね、それつけてると結構楽らしいの」
「ふー…ん」
大雑把な説明をしてやるとシュウ君は気の抜けた声を発してそのまま何かを考え始めた。
そして徐に私の腕から抜け出して今度は私を後ろから抱える様に抱き締めた。
ん、どうした。何か心境の変化?
すると突然遮られてしまう私の視界。
「え、え?シュ…シュウ…君?」
「………即席PC眼鏡。」
「ブルーライトどころか視感全体シャットダウンなんだけど!」
そう、今私は彼の大きな片手で視界を遮られている。
所謂目隠し状態だ。更に頭の感触から察するにシュウ君の顔は私の頭の上に乗っているらしい。
この光景…多分相当シュールだと思う。
「あの、シュウ君…はなし、て」
「花子の目が」
頭の上に乗っていた彼の顔が首筋に埋められる。
ふわふわした髪の毛が普段以上にくすぐったく感じて思わず身を捩る。
「花子の目が何も見えなかったらいいのに」
「シュウ君?」
音を立てて首筋に吸い付かれたようで大きく体を揺らして
恥ずかしさの余り視界を遮っている彼の手をどかそうとすれば空いていた片手でそれは阻まれてしまう。
そしてそのまま何度も何度も指先に口付けを落としてくる。
「あ、ちょ…シュウ君!」
「こうして何も見えないまま俺の事だけ感じてくれればいいのに…」
それは少しばかり狂気的な独占欲で、私は思わずブルリと震えてしまった。
するとふわりと視界は解放され、突然入って来た光に目を細めてしまう。
シュウ君はそんな私を覗き込んで困った笑顔。
あ、その顔も可愛い。
「でも、花子の瞳もかわいくて好きだから…やっぱり見えてる方がいい。」
「う、うん…」
だから、可愛いのはシュウ君だよ。
そんな言葉が出てくる前に唇は塞がれてしまい、私は思いっきり顔を赤くしてしまう。
「ふふ、照れてるのか…かわいい」
「く、くぅぅぅ!」
嬉しそうに笑う彼に反論できなくてじたじた暴れてみても力では全く適わなくて
不機嫌に唇をとがらせていると「キス強請ってんの?」って言われて慌てて首を大きく横に振った。
「と、言うわけで早速メガネ屋さんに来たのはいいけれど…なんでシュウ君まで来てるの?」
「花子を1人で歩かせるなんて…」
「わ、私は子供じゃない!」
コイツ何言ってんだみたいな目で見つめてそんな台詞。
忘れがちだけれど私の方が年上なんだからね!ちゃんと成人してるんだからね!
そんな事を考えているとシュウ君が何かお気に入りのフレームを見つけたようで不意にそれを持ってきてカチャリと私に装着させる。
「コレにして」
「別にいいけど…気に入ったの?」
「うん、ホラ…」
クルリと身体を回されて鏡に映った私の顔。
ソレはオーソドックスな形の黒縁だったけれど、フレームの端に小さく黄色の薔薇がワンポイント。
それをちょんと指でつついて彼は意地悪に微笑んだ。
「俺のイメージカラーだから…これで、仕事中も花子と一緒だな。」
「よし、別のにしよう心臓が持たない。」
「おい、店員。コレ、PCレンズで。」
「は、話を聞いてよ!」
私の抗議も虚しくそのシュウ君モデルのメガネは店員さんの手へと渡ってしまった。
そして何故だかお会計をシュウ君が素早く済ませてこちらを振り返りニッコリ。
「花子の目を守るのも俺じゃないとヤダ。」
「ああもう、だから可愛いか格好いいかどっちかにしろって言ってるでしょ…」
真っ赤になった私は小さくそう呟いて盛大にため息を吐いてしまった。
どうやらこれからは仕事中も彼の事を思いだすハメになりそうだ。
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