14:甘いお茶会


「花子さんのおいしいケーキがたべたいなぁ」


ぴょこぴょこ。
可愛い可愛いくまさんが手を動かして私にお願いをする。
この子は最近できた私のお茶飲み友達だ。


「よーし!可愛いテディ君の為にお姉さん、頑張っちゃうぞ!」


「オイ、花子。どういう事だ。どうしてカナトがここにいる。」


非常に不機嫌なお顔のシュウ君に苦笑しながら私はキッチンへ向かう。まさか、カナト君がシュウ君の弟だったとは驚きである。

事の始まりは今から数日前。
シュウ君がいつもの様に私の肩で眠ってしまったときに不意にまた甘いものが食べたくなって
彼を起こさないようにそっと家を出てケーキ屋さんへとフラフと足を向けたのだ。

そしてそこにいたのがカナト君で、べったりとショーウィンドウに張り付いてうんうん唸っていたので、オススメのケーキを教えてあげれば何故かそこで意気投合してしまい、お互い甘味好きと言う事もあってそれから時折お茶を楽しんでいたりする。


「シュウは甘いものが嫌いだから…花子さんを満足させることが出来ないよ…ねぇ?テディ?」


「はぁ?ふざけるな、俺は別の事で満足させてやるんだ。いいから出ていけ。」


…別の事って何で満足させる気ですかシュウ君。
そんな事を考えながらも私はシュウ君の分だけはビターのお菓子を作りつつ、合計5人分のケーキたちをつくりあげた。
そう、今日のお客さんは実はカナト君だけではないのだ。


「はいはーい!できましたよ〜。」


「わぁ、まるで宝石みたい。綺麗だなぁ…」


「花子…何この量…」


どさりとたくさんのケーキを用意すればピクリと眉を動かすシュウ君。
察しの良い彼の事だからもう気付いているのか徐に扉の方へ歩いて行きガチャリと鍵をかけてしまった。


「ちょ、ちょっとシュウ君。まだお客さん来るから…」


「やだ、もうこれ以上花子の部屋に男いれたくない」


…相変わらず可愛らしい嫉妬だこと。
本当にシュウ君ってばポジション彼女だと思うんだよね。
溜息をついてそんな彼に詰めよれば「う」と小さな声が聞こえる。
仕方ない、自分で言うのもアレだけどシュウ君はとことん私に弱い。


「鍵かけちゃって扉壊されたら修理費、馬鹿にならないんだけどなぁ」


「………くそ、」


観念したように静かに鍵を開けた瞬間大きな音を立てて勢いよく扉が開かれて、事もあろうにそれはシュウ君の顔面に直撃してしまいすごい音を立ててしまう。

あ、あわわわ…大丈夫だろうか。
けれどそんな事を気にしている間にずかずかと部屋に入ってくるお客様。


「いやぁ、本日はお招きいただきありがとーございますってね★ハイ、これールキ君から♪」


「おじゃま…します…」


「コウ君、アズサ君、いらっしゃい」


コウ君から“ルキ君”という人からの手土産を受け取って取りあえず笑顔で中へ案内しようとすればむくりと起き上がったシュウ君が二人の頭を片手で鷲掴みにしてぷらーんと宙ぶらりんにしてしまう。


何なのだこの恐ろし過ぎる光景は。



「おい、お前達…俺に言う事があるだろ?」



「「ご…ごめんなさい」」


二人が素直に謝れば長いため息をつきながらもぼとりとその場に落としてしまったシュウ君に苦笑。すると今度はじとりと恨めしそうに私を見つめてくる。


「なんでコウとアズサを呼んだの…?」


「ホラ、前コウ君はやってきてすぐ帰っちゃったじゃない?だからお茶でもと思って…アズサ君はパーティの時にお世話になったから」


「全く…お人よし。…ん、」


呆れたようにそう吐き捨てつつも、音を立てて頬にキスをしたシュウ君は観念したのか大人しくコタツへと潜っていく。

そして思いっきり手を引っ張って私を後ろから抱き締めていつもの体勢へと持っていく。

そんな彼を見てコウ君は面白いモノを見つけたようにニヤニヤ笑って、アズサ君はきょとんと首を傾げながら別の入り口からもぞもぞとコタツへと入場。


「わぁ!コレもしかして花子ちゃんの手作り!?」


「あ、はい…コウ君のお口に合うかわからないけれど。」


「んもう〜敬語やめてよねぇ。花子ちゃんは特別っ!ね?」


不機嫌に頬を膨らませて軽く私を小突いたコウ君はニッコリ微笑んでそんな台詞を言ってくれる。

嬉しくて何度も首を縦に振ればコウ君の頭に振り下ろされるげんこつ。
うん、デジャヴ。


「だ、だから!アイドルに!げんこつ!ダメ!絶対!」


「俺の花子に何色目使ってんだ。消すぞ。」


ぎゃんぎゃんと喚くコウ君に対して恐ろしい言葉を吐くシュウ君に背筋がぞっとしたがそんな私を先程からじっと見つめていたアズサ君がゆっくり私の前にケーキを差し出したから、抵抗する理由もなくそのままぱくりとそれを頬張ると、彼は嬉しそうに瞳を輝かせて、もう一口と言わんばかりに、別のケーキを差し出してくる。

そしてそんな彼が可愛くて私もそのままもうひとくち。


「ふふ、アリスはかわいい、ね…」


「…………おい、」


とんでもなく、とんでもなく恐ろしく低い声でそう言ったシュウ君にアズサ君の身の危険を感じた私は慌てて彼の腕の中で動きながら彼用に作っておいたケーキを取りシュウ君の口元へ持っていく。すると彼はきょとんと目を見開いてこちらを覗き込む。


「これ、甘くないから大丈夫だよ。」


「あー」


そんな私の言葉に素直に大きく口を開くシュウ君はとっても可愛くて
思わず顔をほころばせながらひょいっとケーキを放り込んでやれば先程まで纏っていた殺気は綺麗に消え去って

今度は嬉しそうな、ぽわぽわとした空気が彼の周りに出来て満足そうにもぐもぐと口を動かしてくれている。


「あー!シュウ君ずっるーい!ねぇねぇ花子ちゃん花子ちゃん!俺も、俺もあーん!」


「アリス…俺、も…」


「シュウばかり狡いです…!僕も、あーんって、して?」


きゃいきゃい喚き出した可愛すぎる三人の吸血鬼たちに苦笑していれば
再びぎゅっと強く抱き締められた。


「だぁめ。花子は俺のだから、あーんも俺だけのものなんだよ。」


『えー!?』


得意気にふふんと鼻を鳴らしてそんな台詞。そして三人そろって大ブーイングだ。
え、シュウ君。どうしてそんな自慢気なんですか。
ていうか…この場にいる吸血鬼全員可愛いんだけど…アレ、一応女の私が女子力で負けてるって何事?


「ああーもう…サイアクだ…」


「シュウ君?」


そんな可愛いお茶会を微笑ましく眺めていれば不意に首筋に顔を埋めてシュウ君が不満気にため息。

首を傾げてそのままいつも彼がするようにぐりぐりと顔を動かしてみればくすぐったそうに身を捩りつつもじとりとこちらを見つめる。


「いきなり三人もライバル…そしてまだ嫌な予感がする。」


「ライバル…って、何の?」


「おーまーえーはー」


「いひゃいいひゃい」


シュウ君のボヤキにハテナマークを頭上に浮かべればむにーってほっぺを抓られてしまい
思わず腕の中でじたじたと暴れる。
そしてそんな私を見てシュウ君はまた一際大きな溜息。


「もうあれか…ヴァンパイアを俺以外全員滅ぼせばいいのか?」


「何ソレ物騒。」



恐ろしい一言にびっくりしてしまえば意地悪くニヤリと笑って唇にキス。


「花子がヴァンパイアの未来を背負っているんだぞ?滅ぼされたくなったら俺に夢中になって…?」


「え、私いつからそんな重要人物になったっけ?」



訳のわからない忠告を受けつつも私はやはり可愛らしく首を傾げるシュウ君と
それを見てずるいずるいと叫び散らす三人を見つめて、なんだか楽しくてふへへって笑った。
またこうしてお茶会を開くのも悪くないかもしれない。



(「ところでシュウ君、嫌な予感って?」)


(「俺の勘は当たるんだ…」)



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