18:ごめん、だいすき


「それでね、その同僚の子がね…」



「…、うん………うん、」




「…………」




私の話に相変わらず肩に頭を乗せながらもどこか遠くを見ながら空返事をするシュウ君にため息。
あれから…レイジ君とお話してからずっとこんな感じだ。
いつも通りに迎えに来てくれるしそのまま遠慮なしに部屋に上がり込んでくるけど
ずっと何処か遠くを見つめてて、表情だって暗い。



「………なぁ、花子は、さ」




「ん?」



ようやくその暗い表情の理由を話してくれる気になったのか
おずおずと口を開いたシュウ君の言葉の続きを待つ。
すると、彼はそのまま私を離さないようにぎゅっと抱きしめた。



「花子は、レイジの方がいい…?」



「……………シュウ君さぁ、」




彼の可愛すぎる質問に思わず長いため息が出る。
全く、ホントこの子の嫉妬可愛すぎて毎回大変。



きっと前のレイジ君との話の事だ。
私が彼の気持ちが分かるって言ったからそれをずっと気にしてたようで…


それはそうか、レイジ君とシュウ君はいうなれば正反対の所にいるようなものだから
この可愛い吸血鬼君はレイジ君の方が私と近いから私の事も彼の方が理解できるんじゃないかとか
自分自身の事、私が理解してくれないんじゃないかとか訳わかんない不安に駆られていたようだ。




「シュウ君やっぱり彼女だよね。」



「俺は真剣に、」




私が小さく笑いながらそう言えば少しだけむっとした彼にやっぱり苦笑。
ホント、吸血鬼ってどこまで可愛ければ気が済むんだろう。
そんな彼の頭を何度も撫でてあげるけれどやはり少しばかり不服そう。



「もー。そんなに不安にならなくったって私はちゃんと……………あ、」



「花子?」




彼とは真逆に緩んだ顔を隠すことはしないで安心させるように言葉を紡いでいた途中で
私は盛大に固まってしまった。
…気付かなくてよかった事に気付いてしまったのだ。



「どうした?花子?顔青いけど…具合悪いの?」



「や、あの…えっと、」




顔面蒼白な私を見たシュウ君は何故か自分が酷くつらそうな顔をして
その綺麗な瞳を揺らしながらこちらを覗き込む。
…対して私は具合は悪くないが居心地は非常に悪い。




「…お前、ホント大丈夫?ちょっと横になった方が…」



「ややややややあのあのあのだ、大丈夫!1人で、できるもん!!」


彼が私を抱え上げようとしたのを盛大に拒否してそのまま勢いよく一人でベッドにもぐりこんだ。
先程まで青かった顔は今ではもう真っ赤だ。
…言えない。今更、言えない。



「花子………、」




けれど私のそんな心の中なんて読める訳ないシュウ君は、さっき勢いよく私に拒否されたのが酷くショックだったのか、もう今にも泣いちゃいそうだ。
ああ、違う違う。私はシュウ君にそんな顔をさせたい訳じゃない。



「花子、やっぱりレイジのがいいの…?」



「ち、ちがう!それは違う!!」




彼の絶望しきった台詞は盛大に否定したけれど、それでも私は未だベッドの中で
シュウ君と一定の距離を保っている。
全く、どうして私ってこう肝心なところが抜けてしまっているのか。
頭の中で盛大に自分自身に怒っていると気が付けばシュウ君の腕の中。



「花子…ごめん、」



「しゅ、シュウ君?」



何に対してかわからない彼の謝罪の言葉に疑問符を浮かべていれば
抱き締められた腕にぎゅっと力が籠められる。
いつもよりそれは酷く強くてぎりぎりと私の身体が悲鳴を上げてしまうほどだった。



「ん、シュウ、く…ぃた、」



「花子が俺の事好きじゃなくても…離せない…ごめん、…ごめ、ん」




それはお気に入りの玩具を大人に取り上げられそうな子供みたいで…
取られまいと必死に握り締めて結局自身で壊してしまう加減を知らない子供。



「しゅ、んぅ…ん、ん…」



「花子、花子…ん、花子…」




盛大に誤解してしまっている彼に言葉をかけようとすれば
それは全て彼の唇に飲み込まれてしまって、以前彼の名前を初めて呼んだ時のような…
ううんそれ以上に深くて激しいキスに意識がくらくらしてしまう。



「ぅむ、…ぁ、ん…ふぁ…」



「花子…ごめん、離さない…ん、離せない…んん…」




あ、ダメ…息が、できない。



必死に彼に縋り付いてもそのキスの嵐が止まることはなくて
もうこのまま呼吸をさせてもらえないんじゃないかって言うくらいの深いそれに私は遂に意識を飛ばしてしまった。




「花子……だいすきなんだ、」




涙声の彼の声が遠くに聞こえた。



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