2:好奇心と吸血と
「まさか家まで仕事してるなんて思わなかった」
「私は逆巻君が家まで上がり込んでくるとは思わなったけどね。」
もはや笑うしかできないし。なんだこの状況。
何で今日会ったばっかりの自称私の彼氏がいきなり私の家に上がり込んで小さなコタツで私の隣にぴったり寄り添って座ってぶーぶー文句言ってんの。
「あーもー何でこんな事に…って逆巻君?」
「んー…」
なんかさっきから首かくんかくんしてる。
心なしか目も虚ろだ。…アレ?これってもしかして…
「眠いの?だったらおうち帰って寝なさいよ。」
「やだ…花子と一緒に居たい…」
「………わぁ。」
遂に耐えられなくなったのかこてんと私の肩に頭を預けてそれでも睡魔と戦う彼はぐりぐりと頭を動かすものだからくすぐったくて仕方ない。
そしてそのままの体勢でうつらとこちらを覗き込みそんな台詞。
…流石に美形男子のこんな顔に私は耐性を持ち合わせているほど恋愛経験豊かな悪女ではない。思わず顔を赤くしてしまうと逆巻君は嬉しそうに微笑んでまたわざとにぐりぐりと頭を動かす。
「照れてんの?…かわいい。」
「いや、今の状況どう考えても逆巻君の方が可愛いからね。」
私の発言が逆巻君は不満だったのか、さっきまでご機嫌だったのに今度は不機嫌顔。よくコロコロ変わるなぁ。
ていうかさっきから逆巻君がくっついてる部分が冷たいんだけど…これって?
「ねぇ、逆巻君って冷え性なの?」
「ん?…あー…俺吸血鬼だから。」
「…何、自分が人外並に美形だって言いたいの?」
訳の分からない事を言い出した逆巻君に対してとげのある言葉で応戦。まぁ確かに美形なのは認めるよ。ホント、イケメンだと思うけどさぁ
ないわ。その発言はないわ。
呆れかえってると逆巻君はよりむすっとしちゃってのそりと頭だけを動かして私の首筋に顔を埋めた。
「ちょ、逆巻く…、いぃぃぃったぁ!?」
「ん…」
ぶつりと皮膚が破れた音がしたかと思うとピリっとした痛みが走る。
そしてじゅるじゅると何かを啜る音と、彼の喉がなる音が聴こえてきてもう私の頭はパニックだ。え、これ、あれ、マジで?
「いった!痛いし!痛いって!」
「んん…」
すっごい痛いんですけど!
ていうか何でそんな色っぽい声だしてんの逆巻君は!色気に関して女として負けた気がするのは気のせいか。まぁ今はそれどころじゃないのだが。
ズルリと何かが首から引き抜かれた感覚がして、チラリと逆巻君を見てみると口元は真っ赤に濡れていて、少しだけ鋭い牙がちらついている。彼はそんな私を見て意地悪そうに微笑んだ。
「わかった?」
「え?えぇ…?ホンモノなんだ…」
吸血鬼だなんてどこの御伽噺だよてめぇとか思ってたけど実際目の前で起こった事は否定できなくて、私はまじまじと逆巻君の口を見つめる。おお、本物の牙だ。すごい。
「何、見たいの?…ん、」
「わ、わぁー!すごい!」
私の興味津々の視線に気付いたのか、彼はゆっくり口をあけてくれた。初めて見るそれに私は少しばかり興奮気味だ。だってこんなファンタジーな生き物がこんな間近に居るなんてすごい事だもの。
「失礼しま―す、よっと」
「ん…んぅ…」
こんなに近くにあったら触れてみたくなるのも仕方がないと思う。なので私は一言断りを入れて、そっと彼の口の中に指を入れてその牙にそっと触れる。
おーおーおーほんっと鋭いなぁ。てかこんなので私さっき噛まれたのか…そりゃ痛いわ。うんうん。
「ん…ん、…ふぉい…」
「おーすごーまじかー…ほぉほぉ」
「……っ!」
がぶり。
「っぎゃぁぁぁあ!」
「んー」
どうやら逆巻君は私が彼の事をお構いなしに牙をいじっていたのがお気に召さなかったらしく
不機嫌な顔でそのまま思いっきり私の指に噛み付いた。
そしてそのまま再び私の血を啜る。ご、ごめんなさい!許してください!マジ痛い!
じたじた暴れていると、牙を抜いてくれたけどその代りにぎゅっと抱き締められてしまった。
「さ、逆巻君?」
「牙で遊ぶくらいなら俺と遊んで。」
ぎゅうぎゅう抱き締められて正直苦しい。
後私の乙女脳もついでに苦しい。
ちょっとちょっと、自分の牙にも嫉妬って何ソレ可愛すぎるんですけど。
「逆巻君って可愛い属性なの?」
「…何ソレ。俺に可愛いって言うの花子だけ。」
「うそだー。」
また不機嫌な声が聞こえて私は思わず声をあげて笑ってしまった。そんな訳あるか。こんなに可愛い男の子他にいるか。
「まぁでも今日は遊んであげれないかな。お仕事あるしさぁ。」
「………ケチ。」
可愛い不満と共に素直に手を離してくれる逆巻君に苦笑。また先程の体勢に戻ってもそもそと私の肩に頭を預ける。それを合図に私は資料の整理と簡単な作業をしていく。
「んー…花子、」
「はいはいなんですかー。」
「だいすき」
「ぶふぁ!」
すりすりしながらそんな愛の告白しないでください逆巻君。衝撃で資料握り潰しちゃったじゃないか!何度も言うが私はイケメンに耐性があるわけではないんだってば!
「その反応…かわいいな。」
「だから!可愛いのは!逆巻君!」
真っ赤になった顔で照れ隠しに言ってみるけれど彼はそんな私の気持ちなんてお見通しで、また嬉しそうに微笑んだ。
くっそ、今夜は無駄に心拍数が早いぜ!
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