21:渡さない
「どうしてこんな時に来たのシュウ君。」
「……………だって、」
現在私はシュウ君の前に仁王立ちである。
首筋からはボタボタと真っ赤な血が流れている。
そしてシュウ君は私の前にちょこーんと正座をしている。
頭に3つ程大きすぎるたんこぶを作りながらふくれっ面である。
「だってじゃない!!自重が出来ないならおうちにこもってなさい!!!」
だんっ!っと大きな音を立てて地団駄を踏めば
怒られた仔犬の様にシュウ君はビクリと体を揺らす。
可愛いけれど今日という今日は許さん。
「吸血鬼が満月どえらい事になるだなんて知ってたら家にいれなかったのに!!」
「だって…だって、」
「ぎいいい!離しなさいシュウ君!!」
きらわないでくれと言わんばかりにぎゅうぎゅうと私を抱き締めながら
すりすりと頬に擦り寄ってくれば私の顔面は真っ赤だ。
ほだされてしまいそうで危ない。
事の始まりはいつもの如く私を迎えに来てくれたシュウ君の様子がおかしかったところから始まる。
いつもなら虚ろなその目は何処かぎらついていて、なんだか全体的にそわそわしていた。
そんな彼が少し気になっていたがそこまで深く考えず、いつも通り家に二人で帰って
扉を閉めた瞬間、なんと羽交い絞めにされてとんでもなく色っぽい吐息と共に盛大に吸血してくれやがったのだ。
後々聞いてみれば、どうやら吸血鬼と言うのは満月時には酷く喉が渇いて血に飢えるのだそう…
けれどそんな事はどうでもいい。
性別上女の私より色っぽ過ぎる吐息と、痛すぎる吸血によって
私の乙女としてのプライドと、仕事で疲れ切っていた身体は現在ボロボロなのだ。
「そもそも、こういう時は自分で言うのもアレだけど私の事を気遣って会いに来ないのが普通でしょ!?」
「…俺だってそれは考えたし」
未だに抱き締められながらも必死に抗議すれば
一旦体を離されてそんな事を言いだすシュウ君の顔を見つめる。
…相変わらずその可愛すぎるふくれっ面をどうにかしてくれ。
「花子を傷付けたくないから会わないでおこうって…、………でも」
「しゅ、シュウ君?」
再びぎゅうぎゅうと抱き締められてしまえばもう彼の顔は見えない。
けれど声が震えてしまっているので、不安がっているのはすぐにでも分かってしまう。
「花子に会えないとか…そんな淋しいの、俺が耐えれない。」
「ハイ許した―。」
なんだよ、彼女か。
…ん?私この言葉何回心の中で呟いてるんだろうか。
可愛すぎるその発言に、もう怒ってないよと言う意味を込めて
私からもぎゅっと抱き返してみれば、それが嬉しかったのかシュウ君は更に私を抱いている腕の力を強める。
「ちょ、シュウ君…くるし、」
「それに」
不意に奪われた唇は当然だが私の血の味がして
そのまずさに顔を歪めていると、シュウ君はその細くて綺麗な指でぐいっと赤く濡れた私の唇の拭う。
「お前は他の奴等にも好かれてるから…俺がいれば安心だろ?」
「…だから私は何回もシュウ君に格好いいか可愛いかどっちかにしろって言ってるよね。」
そんなまるでオヒメサマを守るオウジサマみたいな台詞吐かないでよ。
お蔭で私はもうこれ以上ないくらい顔真っ赤だし。
けれどそんな私をよそにシュウ君はいつになく真剣な目で私をじっと見つめる。
「花子の血も心も、体も…全部渡さない。」
「シュウ君、」
“ごめんな”小さくそう呟いて再び塞がれたキスは
どちらも泣いていないはずなのに、どうしてかとても悲しい味がした気がする。
私、シュウ君に好きって言ったのに
…きっとあれだけじゃ彼にはまだまだ足りないんだ。
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