22:1m50cmの距離


「あ、あのさー…シュウ君、これ、意味あるの?」




『すっごいたのしい』




や、うん。
楽しいならいいですけど…



耳元から聞こえるノイズ交じりのシュウ君の声に小さなため息。
チラリと見れば私のベッドの上で三角座りをしながら携帯片手にとても嬉しそうだ
現在私とシュウ君は携帯電話で通話中である。



二人の距離は大体1m50cm位だ。




「これ、直接話した方が楽じゃない?」



『やだ。折角花子の番号聞いたのに全然使えてない』




…それは毎日毎日飽きもせずに私を迎えに来てこうやって部屋に上がり込んでるからだよシュウ君。
気が付けば仕事以外はほとんどべったりのシュウ君だ。
そりゃ電話なんてする機会無いでしょうよ。
ずっと私の肩に頭のせてぐりぐりしてるんだもん。



『もしもし、花子』



「ん?何?」



『だいすき』



「ぶふぁ!」




じっとこちらを見つめながらそんな彼の言葉がダイレクトに耳に響く。
幾らノイズ交じりだからと言って突然では心臓に悪い。
大きなリアクションをすればクスクスと嬉しそうなシュウ君の笑い声。
…本当、私ってば彼に遊ばれてる気がする。



一通り笑えばどうしてかシュウ君の声が聴こえなくなる。
不思議に思い、彼の表情を見てみれば何処か淋しげで今にも泣きそうな顔をしていた。




「シュウ君?」



『花子、……遠いよ』




その言葉が彼とのこの1m50cmの距離をあらわしているのか
種族の違いを表しているのか
はたまた身分の違いを表しているのか…




私とシュウ君の「好き」の重さの違いを表しているのか




どれから分からない。
分からないけれど、自分の好きな人がそんな顔をしてそんな事を言えば私が出来る事は一つだけだ。




「花子………?」



「これで、ちょっとは近くなったかな」




今はノイズ交じりではなくダイレクトにシュウ君の声が聞こえる。
先程まで持っていた携帯を投げ捨てて、その手でベッドの上で小さくなっている彼をぎゅうぎゅうと抱き締めた。
彼の言葉を借りるのであれは同じ冷たいものならば、今はこうしてシュウ君を抱き締めていたい。



「…ん、花子。ありがとう」



弱弱しく回された腕が悲しくて
もっと強く抱き締めてもいいよって、言葉にしないで私がもっともっと強く彼を抱き締めれば
遠慮がちに強められた腕の力に安堵する。



大丈夫。私はシュウ君より弱い人間だけれど精密機械じゃない。
これくらいの力じゃ絶対壊れないから…




「花子、だいすき…ごめん、だいすき…」




「私もだいすきよ…シュウ君。」





うわ言の様にだいすきとごめんを繰り返す彼の唇を塞いで
優しく微笑んでやれば、その瞳はじわりと涙を浮かべてしまう。



嗚呼、彼のすきとの差を埋めるにはきっと時間がかかる。



だってシュウ君は私よりも10年も私を好きでいる時間が長かったんだ。
そこに差が生じるのは当たり前だ。
…けれど私は知ってる。
こういう気持ちに時間は関係ないと言う事を。



でも、それでも…それを抜き差ししてもきっと彼の想いはとても大きい。




それに、もし、本当にこのまま彼と一緒に居るのだとしたら
沢山の問題がある。
以前ルキ君が言っていた身分の違いや種族の違い…
きっとシュウ君はそんなの関係ないだなんて言うんだろうけれど
私にはそれが酷く重くのしかかっている。




人生、好きとかだけで生きていられるほど甘いものではない。




「シュウ君、遠いね…」



彼に聞こえないように小さくそう呟いて
再び彼を抱き締める腕に力を込める。



「花子…離さないで、おねがい」



彼のその言葉に
「それは私の台詞だ」と、心で悪態を付いて小さく自嘲した。



本当はシュウ君じゃなくて、私が貴方に縋り付きたいのに…



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