23:部品の恩返し
「…オイ、レイジ。何で花子がここにいる
んだ。俺は聞いていない。」
「おや、いちいち穀潰しに許可を頂く必要などありませんよ。ねぇ、花子さん?」
「あは、あははは…」
彼等の会話に私は引き攣った微笑みを返すしかない。
現在逆巻家にてお茶会の真っ最中である。
…私の後ろに超不機嫌なシュウ君を添えて。
突然レイジ君に呼び出されたかと思えばそのままずるずると逆巻邸へと連れて来られてしまった。
どうやら珍しい茶葉が入ったとのことで、是非一緒にお茶をしてほしいとお願いされてしまったのだ。
彼の下調べは万全で、その日は丁度私の仕事が休みの日だった。
…流石レイジ君。こう言う所、完璧だと思う。
そしてそんな私の突然の訪問を全く知らなかったシュウ君は玄関前で私の姿を見てそのままビキリと青筋を顔に浮かべて
さっきからべったりと私の後ろから離れてはくれない。
というかさっきからすっごい…すっごい視線感じるんですけど。
何処からかは流石に分からないけれど何だか複数の人に見られてる気がしてどうしても落ち着かない。
するとそんな私の様子を見ていたレイジ君がチラリとシュウ君を見れば、彼は小さく舌打ちをして私の頭を撫でる。
「ちょっと弟達殴ってくるから…浮気はするなよ?花子」
「浮気したことないよね!私!その言い方だといつもしてるみたいだけど!!」
私のそんなツッコミをよそにシュウ君はのそのそと何処かへ行ってしまった。
…というか今までの視線はシュウ君の弟さん達のだったんだね。
あ、そうだ。後でカナト君にも挨拶しに行こう。
そんな考えを巡らせていれば不意に重ねられた手に思わず視線を向けると
レイジ君がどうしてか少しだけ困ったように微笑んだ。
「穀潰しと喧嘩ですか…?」
「え…?」
「先程からずっと浮かないお顔だ。」
そんな言葉に思わず慌てて両手で顔を隠そうとしたけれど
残念な事に今私の手はレイジ君の掌の下である。
どうしていいかわからず取りあえず下を向いてしまう。
別に…べつに喧嘩なんてしてない。
ただ少し、シュウ君との距離を自覚してしまっただけ。
身分も年齢も愛の差も…
全部全部私とシュウ君じゃかけ離れてしまっている。
俯いて黙りこくっていれば小さなため息とともに解放された両手に疑問を抱き顔を上げる。
するとずいっと差し出された見覚えのある小さな時計。
「これ…」
「以前貴女がカフェに忘れていた時計です。…全て直しておきました。」
カチカチと無機質ながらも時を刻んでいるソレを覗き込めば
レイジ君は優しく微笑んだ。
「貴女は私を部品と…そう仰いました。そしてきっと貴女も本体ではなく部品です…」
「…………、」
彼の言葉に何と言っていいのか分からない。
もしかしたら遠まわしに私とシュウ君じゃ不釣り合いだと言っているのかもしれない。
しかし事実そうなのだ。
私は所詮一人間社会の歯車だ。ヴァンパイアの世界の貴族様とは住んでる世界が違う。
でも、それでも私は…
けれど私のそんな悲しい考えとは全く裏腹の言葉を
レイジ君は…以前会った時より数段優しい、暖かい口調で紡いでくれた。
「貴女は逆巻シュウと言う本体自身が選んだ最高の部品なのですよ?」
「レイジ君…」
「ねぇ花子さん。もうアレは貴女がいないと動くどころか生きる事さえできません…大事な核を失ってしまった時計の様に」
カチカチ
未だに目の前の時計は規則正しく時を刻む。
正確に…緩やかに。
ああ、私もこの時計の部品の様にシュウ君に欠かせないものになっていると自惚れていいのだろうか。
「ねぇレイジ君…私は只の一般人だしシュウ君より年上だし…シュウ君よりシュウ君を愛してないかもしれない…それでも、それでも…傍に居ていいのかな?」
震えてしまう声でそう問えば今度は少しおかしそうに微笑む彼に首を傾げる。
そんな私に降って来たのは額への彼の唇だった。
「只の一般人で年上の、シュウ程愛が育ってない貴女を彼が選んだのです。自覚なさい。貴女は自惚れていい。」
言い聞かせるようなそんな言葉に私の胸は少しばかり軽くなった気がした。
自惚れていい…その言葉が酷く心地よい。
きっとどこかで劣等感があったのかもしれない。
全てが彼より足りない自分自身に。
例えシュウ君の口から気にしなくていいと言われても、気を遣っているのだろうかなんて考えてしまうから
こうして第三者からの言葉と言うのは酷く影響力があるのだ。
レイジ君のそんな言葉にようやく笑顔を作れば呆れたように彼は笑う。
「もし貴女の事で周りがとやかく言うのであればそもそも私が容赦しませんよ。」
「ふふ…レイジ君格好いいなぁ。」
「何年部品をやっているとお思いで?舐めないで頂きたい。そもそもあの穀潰しはいつもいつも…」
あ、シュウ君の呼び方また穀潰しに戻っちゃったなぁ。
もうすっかり今やシュウ君の愚痴大会を始めてしまったレイジ君に今度は私が苦笑すれば
ツンと小突かれる額。
思わず目を見開くとレイジ君はまた優しく微笑んだ。
「やはり貴女はこうして自然に笑っている方が美しい」
「レイジ君、」
「おいレイジ、何俺の花子口説いてるんだ消すぞ」
地を這うような声が聞こえて通常運転過ぎる彼のやきもちにも変わらず苦笑だ。
ああホラ、やっぱり私とシュウ君の愛には大きく差があるみたい。
けれど今はそれに嘆くと言う事はない。
差があるなら私が全力で縮めればいいだけのはずだ。
大丈夫、私は自惚れていい。
「大丈夫だよシュウ君。私が好きなのはシュウ君だけだよ。」
「!?……………レイジ、花子になんか飲ませたのか?」
ちょっと、只素直に気持ちを伝えただけなのに酷くない?
けれど言葉とは裏腹にすっごく嬉しそうに顔がほころんでしまっているから
まぁ今回は許してあげようか。
小さく笑えばそれを見ていた同じ眼鏡の部品君は
やっぱり優しく微笑んでいた。
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