24:攫ってお姫様


「花子、今すぐ俺を攫って」



「や、それは多分彼女ポジションの人が言うセリフであって…あれ、シュウ君いつも彼女ポジションだからあってるのかな?」



「…俺は花子の彼氏だし。」



ぎゅうぎゅう。
これ以前にもあった光景だけど今度はその比ではないようで…
抱き付かれている腰がすっごく痛い。
もう今のシュウ君は加減なしである。
痛い!内臓出ちゃう!!



「…花子は俺が他の女に取られてもいいの?」



「あのね、シュウ君そう言う問題じゃなくて…お父様の顔立てなきゃでしょ?」



「………親父とかどうでもいい」



今回は以前の普通のパーティーとはどうやら違うようで…
何とシュウ君の花嫁探しが始まってしまうらしい。
と言うかシュウ君の地位とか顔とか身体目当ての女性ヴァンパイアさん達がこぞってこの機会に訪れるらしくて
もう当の本人であるシュウ君はこうして私から離れようとはしない。



…や、うん。
ちょっとは覚悟してたけど。
貴族だし、お金持ちらしいし、イケメンだし、可愛いし
こういうの位あるだろうなって…。




正直私だっていい気はしない。
いい気はしないけど…そのパーティの主催はやっぱり彼のお父様らしい。
だったらこのままシュウ君が私の傍に居続けて今日の催しをだいないしにしてしまうと言うのは
お父様の顔を潰してしまうと言う事になる。



それはやっぱり社会人である私としては好ましくないわけで…




じっとシュウ君が何か言いたげな瞳でこちらを見つめている。
う、うん…分かってる。
シュウ君の言いたいことはすっごく分かってしまう。




きっとここで私が一言でも「いやだ」とか「いかないで」と言ってしまえば
彼は本当にこの催しには出ないだろう。
でもそれはきっと彼自身にも宜しくない。



吸血鬼は永遠を生きるらしいし、それにしたってシュウ君は貴族だ。
そんな子が私の我儘で周りの印象を悪くしてしまってはいけない。



「ホラ、シュウ君。時間だから…ね?」



「……………花子、ホントにいいの?」




酷く冷静な私の言葉とは裏腹にシュウ君の言葉は震えてしまってる。
やっぱりシュウ君は可愛い。
でもこんなに可愛くて好きな人が周りから悪く思われるのはどうしても私は嫌だ。



彼には悟られないように、出来る限り冷静に装って
何も言わずに頭を撫でてあげればすごく不満そうな彼。
ごめんね、シュウ君は優しいから私が少しでも我儘を言えばそっちを優先しちゃうでしょ?



するりと、強く抱き締められていた腕が解かれる。
ああ、行ってしまうんだ。
私が望んだことだけど、やっぱり少しは淋しいかもしれない。




「…数日、花子と会えない。」



「…うん、」



「…俺、頑張るから。」



「…うん、」



「…帰ってきたら、ぎゅってして?」



「…………うん。」




察しのいいシュウ君の事だからどうして私がこういう行動に出たのかとかも分かってくれてる。
だからこうして大人しく私から離れて今から沢山の綺麗なヴァンパイア達の園へと向かうのだ。
ちょっと寂しいし、悲しいけれど…うん、仕方ない。


だってきっとシュウ君も年下だろうけれどそれなりの立場だ。
自身の感情だけで動ける子供じゃない。



それから何も互いに喋らないまま、私の家の扉はパタリと閉じられてしまった。
久々過ぎる独りきりの空間で小さく息を吐けばタイミングよく会社からの電話。
どうしたのだろうか、また休日出勤だろうか。



一気に頭を仕事モードに切り替えて電話応対をすれば
まさかの電話越しの宣告にビシリと体を固めてわなわなとそのまま震わせてしまう。



動揺を必死に隠して、あくまで…あくまで冷静を装い電話を切って
独りきりの部屋で私は盛大に喚き散らしてしまった。




「誰よ!私を勝手に一か月も休ませるように仕向けた大馬鹿野郎はぁぁぁぁあ!!!」




どうやら私は本当に…本格的に平凡人生からおさらばするしかないようだ。



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