5:可愛い嫉妬


「はぁ〜…やっぱりコウ君って格好いいなぁ」

「…むかつく。」


雑誌の中のアイドルにまで嫉妬とかもう。
だから彼女か。

仕事帰りに本屋に立ち寄って雑誌を購入して、そのまま帰宅してそれを広げると今大人気のアイドル、無神コウ君の特集を念入りに読んでいく。

私の肩にいつもように頭を乗せてるシュウ君は不満げに眉間に皺を寄せて先程からぶーぶー。
そして不意にこんなセリフ。


「ねぇ、花子。そんなにコイツ好きなの?」


「ん?うーん…そうだなぁ…まぁファンかな?コンサートとかも行ってみたいんだけどいっつも即売り切れちゃうんだよね。」


あー…一回コウ君に会ってみたいなぁ。
そんな事を呟けばじっと私を見つめていたシュウ君は徐に携帯を取りだして誰かに電話をかけだした。

「あー…俺、今すぐ花子のトコ来て。は?いや、お前の用事とか関係ないから。え、花子が誰かって?俺の彼女に決まってんだろ。いやもう、うるさい。いいから来い。5分で来い。じゃ。」


それだけ言うとシュウ君はピッと携帯の電源ごと切ってしまった。
なんか電話越しにぎゃんぎゃんすごい叫び声が聞こえた気がしたけどいいのだろうか…
というか何その一方的で高圧的過ぎる会話内容。


「シュウくん?さっきのって…」


「んー?5分待って…花子にプレゼントあげる。」


気持ちよさそうに私に擦り寄りながらそんな事を言うものだからその真意を知りたくて大人しく5分待つことにした。
すると、丁度五分後。
勢いよく部屋の扉が開かれた。そしてそこにいたのは…


「っもー!シュウ君何さっきの電話!訳わかんないんだけど!ていうかシュウ君に彼女とか俺初めて聞いたし!そしてホントに5分でここまで来た俺に感謝してほしいよね!」


「え!?あ、えぇ!?コ、コウ…君!?」


そう、目の前には雑誌でイケメンスマイルを放っているスーパーアイドル様がプンプン怒りながら肩で息をしているのだ。

え、何、じゃぁシュウ君がさっき電話してたのってコウ君!?
ちょ、ちょっとシュウ君っていったい何者!?というか…というか…眩しい!眩し過ぎる流石アイドル!

あまりに突然すぎることで硬直してしまっているとコウ君は私の存在に気が付いてニッコリとそのアイドルスマイルをこちらに向けてくる。


「キミがシュウ君のエム猫ちゃんかぁ〜♪ふーん、なかなかかわいいじゃん!俺は無神コウ、ヨロシクね★」


「は、はいっ!あ、あの…えっと、コウ君…お、応援してます!」


「わ〜!俺のファンなんだぁ。ふーん…だからシュウ君はいきなり俺を呼び出したんだねぇ。」


ニマニマと二やつきながらシュウ君を見つめるとコウ君はそのまま私の手を両手で包み込んで上下に勢いよく振る。


「わわわっ、コウ君…!」


「これからもぉー俺とシュウ君をよろしくねー♪」


パチリとウィンクのサービス付きの笑顔にもうテンションはうなぎのぼりだ。
けれどそんな私をさっきまで大人しく見つめていたシュウ君がグイッと後ろから抱き締めてきたからコウ君との距離が一気に広がってしまった。
戸惑い気味に彼の顔を覗き込んでみればとんでもなく不機嫌な彼。


「よし、用事は終わった。さっさと帰れ無神。」


「えぇ!?ちょっと!今来たばっかじゃん!それに何でいきなり名字で呼んでんのさぁ何怒ってんの?」


ぶーぶーと唇を尖らせて怒るコウ君はとっても可愛い。
そして背後に魔王でも降臨してるんじゃないかと思う位シュウ君は怖い。


「俺が花子に名前呼んでもらえるようになるまで何日かかったと思ってるんだ。何でお前一瞬で呼んでもらってんの?何様?もうお前は一生無神でいいだろ。」


「え、え?シュウ君いつのまにそんな可愛くなっちゃったの?」


「………」


とげのある口調と少し早目のテンポでまくしたてたシュウ君にコウ君は笑いを必死に堪えてる。
肝心の私は赤面だ。この子はアイドルの前で何言っちゃってるんだ本当に!

恥ずかし過ぎて顔面を両手で押さえているとその手をコウ君に下げられてずいっと顔を見つめられてしまう。


「キミはシュウ君にすっごく愛されてるねぇ〜ふふふ、妬けちゃうなぁ〜なんて…っていったぁぁぁ!」


彼が綺麗な顔でそう囁いた瞬間頭上からグーパンチ。
間違いなくこれはシュウ君のものだろう。おいおいアイドルの頭殴って大丈夫か?
コウ君は涙目になりながらぎゃんぎゃん喚く。


「ちょっと!アイドルの頭にげんこつってどういう事!?ねぇ、花子ちゃんもそう思うよね?」


「え…あ、あの…」


「煩い黙れさっさと帰れ。帰らないと今度は床にめり込ませるからな。」


物騒すぎるその台詞を聞いてコウ君は不満げのままついさっきやって来た扉に手をかける。
あ、本当に帰っちゃうんだ。お茶でも出せればよかったんだけどなぁ。


「もーもーもー!シュウ君のばーか!じゃぁね、花子ちゃんまったね〜★」


べ〜だ!って可愛く舌を出して嵐の様に去っていった彼を見送ると抱き締められていた腕に力が籠る。
拗ねてしまった彼に思わず苦笑。あーもーすごい独占欲だなぁこの子は。


「花子は俺のなのに………」


「シュウ君…って、わ…」


「手にアイツの匂いついてる…ムカツク…ん、」


徐に手を取られて眉間に皺を寄せた彼は何を考えたのか私のそれにゆっくりと舌を這わせた。
突然の事に私はもう顔が真っ赤だ。


「え、ちょ…やだ…シュウ、くん…っ」


「ん、だぁめ…消毒しなきゃ…だろ?」


片手で手を掴まれ、もう一つの腕はしっかりと私の体を掴んで離してくれない。
シュウ君の舌の感触に思わず体をビクリと揺らすとシュウ君はニヤリと意地悪そうに笑った。


「ふふ…花子、やらしー」


「…っ、…っ!も、もうシュウ君なんてキライ!」


「あ、うそうそゴメンゴメン今のなし。だから嫌いとか言わないでマジでごめん。」



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