6:君限定スイーツ


「も、もう限界だ…っ!」


「花子…?」


いつもの様にシュウ君に手を引かれて帰路についていた途中、私はブルブルと体を震わせて力強くつながれた手を引っ張った。


「やっぱりストレスが溜まった時は甘いものに限るなぁ」


「………」


背の高い彼を思いっきり引っ張って強制連行したのは近場のコンビニ。
その中のスイーツコーナーで顔をほころばせながら様々な甘味たちを選んでいる。
ここ最近会社でのストレスが尋常じゃなかった為、限界寸前でそのはけ口となる甘味を探しに来たのだ。


「シュウ君も何か選んでいいよー。」


「ああ、別にいい。俺、甘いもの苦手だから」


「花子の血は別だけど」と耳元で囁かれて思わず顔を赤くするとクスクスと彼の笑い声が聞こえる。くそう、大人をからかいやがって…!
恥ずかしさを紛らわせるために色々なスイーツを手に取っていくと不意にピタリと手が止まる。


「………ん?」


止まった手の動きを再開して目の前の一つの可愛らしいソレを手にする。
あれ、なんか既視感。
これどっかで…どっかで見たことあるぞ?


「何…ソレにすんの?」


「…おお!」


「な、なに…」


ひょいっとシュウ君が私の目の前に顔を出した瞬間に既視感の正体が判明し、私は思わず大きな声を出してしまう。
それに驚いたのか、少しだけ体を揺らしたシュウ君は相変わらず可愛い。
そんなシュウ君の顔の隣にひょいっと手に持っていたスイーツを持っていく。
ああ、やっぱり。


「似てるなって思って。」


「シュークリーム?」


そう、私が今手に持っているのはふわふわのシュークリーム。
いつも眠そうにしてるシュウ君の雰囲気と柔らかい髪なんてもうホントそっくりだ。
あとふんわり甘いのも似てるかもしれない。

そんな事を考えながら笑ってるとシュウ君は頭にハテナマークをたくさん浮かべながら首を傾げる。けれど何か思いついたのかいたずらっ子のような悪い顔でニヤリと笑い、顔の隣にあった私の手をがしりと掴んだ。


「?シュウ君?」


「じゃぁさ、俺の事も食べてみる?」


…は?………はぁ!?
一気に顔に熱が集中するのが分かる。
な、何言っちゃってんのこの子!混乱しているとずいっとその整った顔を近付けてくるものだからもうたまったもんじゃない。


「あ、の…シュウ君…!」


「多分甘いと思うぜ?花子限定で、な。」


「んぅ…!?」


ニッコリと微笑んだシュウ君はいきなり私の口の中にその綺麗で長い指を突っ込んできた。
突然の事での驚きと、馬鹿ココ店内!という焦りから必死に口内の異物を出そうと舌を彼の指に絡めて押し出そうとするけれど
卑猥な水音が小さく響いて更に顔は赤くなる。


「自分から舌絡ませて、顔赤くして涙目…なぁ、花子…俺、甘い?」


「んんんー!」


ぐい、と未だに口内に存在しているシュウ君の指がふいに折り曲げられて
苦しくなって遂に涙がボロリと零れてしまう。
すると先程までどんなに抵抗しても出ていってくれなかった指はいとも簡単に退散してくれた。
けれど代わりにと言わんばかりに今度は彼の大きな腕の中へと閉じ込められる。


「ごめんごめん…花子があまりにも可愛かったから…ふふ、」


「…何でも可愛いって言えば許されると思うなよ…!」


ぐいっと乱暴に涙を零してしまった目を拭うとシュウ君が不機嫌に「目が赤くなるだろ、馬鹿。」って怒った。
そもそも誰のせいだと思っているんだ。
というかもうここの店恥ずかしくて暫く来店できないし、シュークリームだって当分見たくない。

小さく息を吐いて彼の腕から逃れると手早くシュークリーム以外の色々なスイーツを籠の中に放り込んでいく。


「アレ、それ買わないの?」


「うん、なんかもう…いいかなって。」


「ふぅん…やっぱ、俺が食べたいって?」


「ちちち違うやい!」



嬉しそうにニヤニヤすんな!
取りあえず君はまずTPOってやつを勉強してください!



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