7:二面性彼氏


「それにしても花子ってホント甘いの好きなんだな…」


「なに?子供っぽいって思う?」


「ううん、可愛い。」


自宅に持ってきた仕事の休憩にと食べていたケーキをじっと見ながらもニッコリ微笑み、シュウ君は呟いた。
そんな彼の発言に私は相変わらず赤面。いつまで経っても彼の“可愛い”に慣れることはない。
彼は赤くなった私の頭を二三度撫でると満足そうにブラックコーヒーを飲む。
…これじゃ、どっちが年上かわかったものじゃない。


「おいしいの?ソレ」


「?」


また一口ケーキを持っていった時にシュウ君がじっと口を見つめながら問うてきたのでそのまま頷いた。あれ、シュウ君ケーキに興味出たのかな?


「俺も食べたい」


「ん」


彼の要望に答えようとフォークでケーキを一口分すくい、彼の前に差し出したのだけれど
どうしてかシュウ君は不機嫌顔。そして差し出していた私の腕を掴む。


「違う…コッチじゃない。」


「むぁ!?」


掴んでいた腕を勢いよく引っ張ってその反動で前のめりになってしまった私に重ねられる唇。
そして入り込んでくる彼の舌は私の口の中のケーキを貪る。

必死に離れようと抵抗するけれど強い力で抑えつけられてそれは叶わず、只々されるがままになってしまう。

ようやく解放されたかと思うと口の中のケーキはすっかりなくなっていて、代わりにシュウ君がニヤリと意地悪に笑う。


「もう一口、ちょうだい?」


「はぁ!?ちょ、な…んぐっ、」


差し出されたままのフォークをひょいっと取り上げた彼はそのままガスっと私の口の中に突っ込んで、再び楽しそうに口を塞ぐ。

どうやら彼はこの食べ方がお気に召したようだが私はもうそれどころではない!


「ごちそうさま」


「お…おそまつさま、でした…!」


満足げにペロリと唇と舐め上げるシュウ君に対して肩で息をしながらようやく言葉を紡いだ私とのこの差は一体…

くっそういつかこの余裕ぶっこいている年下男子様をぎゃふんと言わせてやりたい…!

…ん?いや、案外簡単かもしれない。

以前の出来事を思い出して今度は私がニヤリと笑う番だ。
そんな私の心のうちを知らないシュウ君はすました顔で再びコーヒーを口にしている。
ふふ、今日こそその小奇麗な顔を歪めてやるぜ…!


「シュウくんっ!」


「ん…?、んぅ…!?」


思いっきり彼の胸倉を引っ張って自ら口付ける。
すると彼は突然の事で驚いたのかその綺麗な青色の瞳を大きく見開く。
口から黒いコーヒーがポタリと零れるが知った事か。
悔しい事に彼ほどのテクニックなど私には持ち合わせていないがこれだけでも彼の動揺を誘うのに十分な材料だと言う事を私は学習している。
なんせ、私が手を握り返しただけで体を揺らすんだから。


どうやら彼は自分から攻めてくるのは大好きのようだけれど、私が積極的になると酷く動揺するらしい。
そういうとこ、正直可愛いと思う。


「…っ、…っ!花子…!」


「ふふふ…ざまぁ…ってぅわ!」


強い力で引き離されたかと思えばそのまま勢いよく押し倒されてしまった。
私の視界には見慣れた天井と笑顔なのにすんごくお怒りであろう吸血鬼様。


「あれ?シュウ君…?」


「別にさぁ…俺はこのまま花子を犯して明日仕事どころじゃなくなる位抱き殺すことも簡単なんだけど…?」


ぞわりと全身に悪寒が足る。
少ない経験値でも分かる。今私は非常に危険な状態に居ると言う事が…!
引き攣った笑顔のままもう私はこの台詞を叫ぶことしか選択肢は残されていない。


「ごめんなさい!調子乗りました、もうしませーん!」


普段ほわほわしてるくせにたまにこう言った真っ黒い笑顔の彼が非常に恐ろしい。
けれど、どっちのシュウ君も嫌いにはなれないなぁって思っていしまっている自分はそろそろおかしくなってきているのかもしれない。



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