9:壁ぎゅー
どんっ!
「え、」
「………どう?」
そうだね、どうかと聞かれれば泣きそうだけれども!
いつも通りお仕事帰りシュウ君と手を繋いで帰っていれば突然路地裏に連れて来られてこの状況。
何故か壁に追いやられていきなり壁にドンッとてをついて迫られている。
「え、え?な、何…カツアゲ?わ、私給料前だからお金持ってない…」
「ん?」
私がブルブルと怯えながらそう呟けばシュウ君はくたりと首を傾げる。
そして私もつられて首を傾げた。
何だろう…ちょっと状況が分かんない。
「女って…こういうの好きじゃないの…?」
「こういうの…って、………ああ!」
シュウ君が何を言っているのか分からなかったけれど今自分の置かれている状況を整理してようやく彼が何をしたいのか理解できた。
「壁ドン!」
「ああ、そう…ソレ。」
そう言えばこないだ私がもさもさ仕事を片付けている隣で珍しく起きてた彼がいつになく真剣に雑誌読んでたっけ。
多分そこに書かれていた情報を読んで早速実践に移してみたんだろう。
な、なんだ…私はてっきり脅されてるのかと思ったよ。だってシュウ君背が高いからこうして迫られると結構威圧感があるんだよね…
ほっとすればじわりと涙が浮かんできてしまい、シュウ君の瞳が大きく見開かれる。
そして長い長い溜息。
「え、しゅ…シュウ君?」
「これって、女がときめくヤツじゃなかったのか?」
そう言いながら私を壁に押し付けたままぎゅうぎゅうと抱き締めてくる。
路地裏とはいえ、ここは外だ。慌てて彼を突き放そうとするけれどがっしりと抱き締められているのでそれはかなわない。
「ちょ、シュウ君、はなし…」
「俺が」
また抱き締める腕に力が込められて少しだけ苦しい。
どうしたというのだろうか…
するとシュウ君からとんでもない爆弾発言。
「俺の方がときめいた。あーもー花子のこと抱きたい。」
「どこにときめいたの!?ていうか何さらっととんでもない事口走ってんの!」
身の危険を感じてひたすらじたじたと暴れ散らすけれど、もうほんとびくともしない!
けれど負けずに暴れていると溜まっていた涙がポロリと零れてしまい、頬を伝う。
それが地面へと落ちる前にシュウ君の唇に掬い上げられてしまう。
そして気だるげな瞳がじっとこちらを見つめる。
まっすぐな瞳に恥ずかしくなって目線を逸らせば両手で頬を包まれて強制的に視線を合わせられて思わず赤面する。
「俺の下で震えて、涙目で…それから赤面?誘ってんの…?」
「ち、ちが…違う…」
首を横に振ってもシュウ君は聞いてくれなくて何度も何度もキスを降らせてくる。
唇だけじゃなくて、額、瞼、頬、首といろんな所に音を立てて可愛らしいキス。
もう我慢できなくてボロボロ泣きがなら彼に懇願する。
「や、やめてよ…恥ずかしいから…っ」
「だぁーめ。…これで我慢してやってるんだ、感謝してほしいぐらいだな。」
「が、我慢って!我慢って!」
「あーもう、黙って。」
そう言うと彼はまたぎゅうぎゅうと私を抱き締めながら体重を預けてきた。
もはやされるがままで、シュウ君と背中の壁に抑えつけられて身動きが出来ない。
「そ、そもそも壁ドンがやりたかっただけだよね!?もはや壁ドンじゃなくなってるんだけど!」
「……………壁ぎゅー。」
「聞いた事ないジャンル!」
なんだよ壁ぎゅーって!逆巻シュウ・オリジナルモデルってやつですか!?
ぎゃーぎゃー叫べばクスクスと耳元で笑われてしまって優しく頭を撫でられる。
そしてベロリと耳を舐められてしまい大きく体を揺らしてしまえばまた溜息。
「あーやっぱり抱きたい。」
「か、壁ぎゅーだけで我慢してくださいいい!」
悲痛な私の叫びは暗くて静かな路地裏に虚しく日々渡った。
もう二度とシュウ君に雑誌は見せてはいけないと心に誓った夜更け。
(「あーそういえば“顎クイ”ってやつもあったっけ…」)
(「絶対しないでね。」)
(「ホラ、試そうぜ…花子」)
(「私の話聞いてたかなぁ!?」)
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