10:崩壊


「あ!やっぱり花子ちゃんだー!シュウから懐かしい香りがするって思ったらやぁっぱり君だったか〜んふっ♪」



「あぁ?んだよ変態…いきなり現れたかと思ったら…花子に何の用だよ。」




寝てばっかだと体にクソ悪いからって
夜が主な活動時間である吸血鬼な俺は出来る事なら昼間に連れ出したかったが
仕方なしにこうして夜中に花子を連れ出した。


…や、昼間どーせ家事やってっから別に昼でいいっちゃいいんだが…。



すると突然どこからともなくひょっこり現れやがったうさんくせぇ語尾と帽子がトレードマークの変態が
いきなりずいっと花子の目の前に顔を近付けやがったから間に入って警戒する。
そして奴はそんな俺を見てニヤニヤと気味悪く笑った。



「あっれー?もしかしてぇ…花子ちゃんの彼氏ってユーマなの?んふっ♪これは面白い!!」



「…………」



ケラケラとおかしそうに腹抱えて笑いだす変態に俺は首を傾げるばかりである。
何だ?訳分かんねぇぞ。
遂に本格的に頭いかれたか?
そんな事を考えていたら不意に服の袖に違和感。



「花子…?」



「ゆーまくん、かえろ…?」




花子が必死に俺の服の袖を握って震えた声でそう言った。
握っている指先は力が入り過ぎて少し白くなっている。
どうしたんだよ…何そんなに動揺してんだよ。



花子の様子をうかがっていた変態は一折笑い終えれば
その切れ長の目を細めて本気で悪魔なんかじゃねぇのかって位悪い笑顔を作る。



「ねぇ花子ちゃん…?また、僕が壊してあげるね?」



「あぁ!?うっせぇ黙れ変態。それ以上花子におかしな事いうんじゃねぇ、ぶっとばすぞ。」



「んふっ♪ユーマは何も知らないんだねぇ。そりゃそっか。じゃなきゃソレ、そんなに大切にしないものね」




さっきから訳のわかんねぇ事ばっかり言いやがる変態にいい加減頭にきて
これ以上アイツの戯言聞いてっと本気でボコボコにしそうだったから
花子を引っ張って家の方へと足を向ける。



けれどそれもアイツの一言ですぐに止まってしまった。




「ねぇユーマ。花子ちゃんの血、おいしくなったかなぁ?」



「………あ?」



「…ゆーまくん、ゆー、ま…く…」



挑発的なそんな台詞に足を止めて振り返り変態を睨めば
余裕ぶっこいた表情でこちらを嘲笑ってた。
その表情がすげぇ癪に障っていたから花子の震えきった懇願の声なんて聞こえなくて…



「ソレ、美味しくないよねーホント。まぁ処女の時よりかはマシ?になったかなぁ〜」



「…テメェ、まさかとは思うけど」




ぶちぶちと頭の血管が切れていくのが分かる。
ヤバい、俺多分この場で喧嘩おっぱじめそうだ…


満月の時の花子の姿が鮮明にフラッシュバックする。
いつも何もせずのんびり動じないコイツが
あの時だけ「汚い」からと、冷え切った湯船につかり俺を近付けようとしない。



全て知っているような顔をしたアイツが
またニマリと嗤った。
背後には満月までとはいかないが少し大きくて眩しい月が輝いていた。



「満月の夜、花子ちゃんの血の味の変わる瞬間…すっごく楽しかったよ?」



「…っ、」



奴のその台詞で頭の悪い俺でも分かり切ってしまうくらい全部繋がって
本当に、本当に目の前のこの男を無かったことにしてやりたいと体が動こうとした瞬間
目に入ったのは…



「………花子、」




さっきまで必死に俺の服を掴んで帰ろうっと懇願してたのに
その手はだらりとしな垂れていて、
表情は何とも見ちゃいられねぇくらいの無表情だった。



何で怒ったり悲しんだりしねぇだお前は



目の前の変態にも、花子にもひどく腹が立ってどうしようもなくて
俺は彼女の手を無理やり引っ張ってその場を後にした。



最後、チラリと見えた変態はまたおかしそうに声をあげて嗤っていた。





「オイ、花子…何処だ」



「ゆーまく、」




家に帰ってくるや否や花子をベッドに放り投げて逃がさないように覆いかぶさって
彼女をそのままベッドに縫い付ける。
分かってる…花子は悪くない。分かってる。



只感情が全く追いついてこない



「何処を触られたんだよ、言え!」



「………、」



ヒステリックに叫んで凄んでも花子は全く怯えないし、泣きもしない。
おいどういうことだよ。何の反応もねぇとか…それじゃ、まるで



「同意で抱かれたのか?あ?」



「ちがう…ちがうよ、」



小さな声が部屋に響き渡る。
その言葉に心の隅が少しだけ安堵したけれど、それでも俺の感情が収まることはない。



「どーせ馬鹿で何やってもダメなお前の事だ、満月んときふらふら歩いててあの変態を無意識に誘惑したんだろ」



イライラ
ムカムカ


きっとこの感情は変態に充てなければいけないはずなのに
どうして俺は今花子に当たり散らしてんだよ。
なんで俺は今花子の事をこんなに傷付けてんだよ。


俺の言葉に何も返さない花子に遂に俺の感情は爆発する。



「あーもう。そっちがその気なら俺にだって考えがある。この汚ねぇ体でいいから抱かせろ」



「ゆーま、く…」



「何度洗ったって綺麗になんねぇよお前なんか。オラ、いつもみたいに優しく抱く必要なんてもうねぇだろ?」



何て酷い言葉をかけてんだよ俺。
花子、全然悪くねぇじゃねぇか。
ああ、ホラ泣いていいから…俺に罵声浴びせて殴りまくっていいんだぜ?


けれど花子は泣かないし罵声どころか声一つ上げはしない。
只々、俺の怒りを鎮める為に自身でゆっくりと服に手をかける。



「はっ…サイテーな雌豚だな」



そんな言葉を吐き捨てて
初めて…俺は初めてこの日、花子を欲望のまま
ホント欲望のままに抱いてしまった。



サイテーなのは俺の方なのに
花子は本当に何も言う事はなく只々、俺の感情のはけ口になって意識を失ってしまった。



ああ、何で俺…
こんなに頭と心に差が出来ちまったんだろう…



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