12:全部愛してる


「はぁ…はぁ…花子、」


「あ、来た。」




大急ぎで逆巻家に殴りこんでニートの部屋に直行した。
幸いな事に今回はニート以外誰もいないようで…
息を切らせて勢いよく扉を開ければニートがゆらりと俺を迎え入れた。


そして奴のベッドの上に静かに横たわって瞳を閉じてる花子の傍に寄って
じっと彼女を見つめる。



「何で花子…ここに、」



「ん」



俺の独り言にニートがずいっとケータイを差し出した。
そこには花子のアドレスと悲し過ぎる一文




【やっぱり私はきたなかった】




ぎゅっと胸がすげぇ痛くなる。
…うまく息が出来ない。



「ヤバいって思って…花子を無理矢理会社から引きずり出した。」



「………そうか、」




察するに花子とニートが繋がってんのは
あの変態野郎が花子を襲った時にその事実を揉み消す為に色々アクションを起こした時に繋がったのだろう。


静かにベッドの隅に座って未だに彼女を只々見つめる。
…今の俺に花子に触れる資格なんてないと思うから。




「触れてやんないの?」



「…俺、昨日…花子にひでぇ事、言ったから」




ニートの言葉に首を横に振れば小さなため息が響き渡る。
なんで俺、肝心な時に花子を守ってやれなかったんだろ。
大丈夫だ、お前は悪くねぇって言ってやればよかったのに…
なんで…なんで…



後悔の感情がひたすら胸を締め付ける。
花子はすぐ傍に居るのに…どうしても触れることが出来ない。




「………ん、」



「あ…花子、」



小さな声と共に目を開けた花子の顔を覗き込めば未だに意識は夢の中なのか
焦点の合わない視線で、それでも俺の姿を捉えればふにゃりと嬉しそうに笑う。



「ゆーまくん」



「ん………?」



本当に嬉しそうに俺の名前を呼ぶからつられて俺も少しだけ微笑んで相槌を打った。
すると花子の口からとんでもない台詞が吐かれて俺の涙腺は易々と崩壊する。



「あの、ね…わたし、がんばる、から…吸血も怯えない…酷い事されても泣かない…がんばる、から…でも、私きたない、から…だから…どうかゆーまくん…私を捨ててください」



「花子…、」



なんだよ…そんな事言うなよ。
ずっと…ずっと俺に嫌われたくなくて我慢してたってのかよ。
ずっと引け目感じて…そうやって怖い事、全部我慢してたって言うのかよ。


彼女のひそやかな努力に全く気付かなかった自分自身が酷く腹立たしくて
顔を歪めてボロボロと男のクセに涙流してりゃ
未だに花子は嬉しそうに微笑んだままだ。




「私は、ゆーまくんがいないと生きれないから…だから、あなたに捨てられたら…あなたを想いながらしねるから…」



こちらに一所懸命伸ばされた小さな手。
思わずその手を取れば静かに流れる一筋の涙。
それは息を呑むくらい綺麗で…



「花子…お前は汚くねぇよ。…ごめんな、酷い事言って」



なぁ…お前が何もしなかったのは性分もあるんだろうが
きっと俺が離れたらいつでも死ねるようにって準備してたのか?
もうお前の中で俺が存在意義になっちまってるくらい、俺の事…好きでいてくれてたんだな。



ごめんな、気付いてやれなくて




花子の世話してるって思ってたけど全然だった。
体は管理してたが、俺は肝心の彼女の心が全然見えてなかったみたいだ。



「ゆーまくん、ゆーまくん…きたない私でも好きでいてくれるの?」



「だから汚くねぇっつってんだろ?大丈夫だ。もし気にしてんなら俺が全部上書きしてやんよ」




わしゃわしゃと、いつもの様に花子の頭を撫でたら
嬉しそうに、幸せそうに微笑むから
その表情が酷く久しぶりな気がして俺の目にじわりと涙が浮かぶ。



「やっぱり、ゆーまくんはすごい」



「おうよ、俺はすごいぜ…っ、」




彼女の幸せに満ちた声に震える声で答えてやれば力の入りきらない腕で必死に縋りついてきた花子をもう離さねぇようにぎゅっと抱きしめた。


ああ、俺…ヤバいくらい愛されてたんだな。
彼女の健気すぎる愛を噛み締めていれば後ろから呆れたようなニートの笑いが聴こえて
恥ずかし過ぎて耳まで赤くしてしまった。





嗚呼、今夜は満月だ。




家に帰ってくれば昨日みてぇな乱暴にしねぇでゆっくりと花子をベッドへと寝かせてやる。
彼女の瞳はどうしてそんなに優しくするのかと疑問を抱いてるようで俺はそんな彼女に苦笑した。



「なぁ花子…抱いていいか?」



「ゆーまくん、」



懇願するように何度も掌に唇を落として伺えば酷く揺れる瞳。
嗚呼、やっぱり。
お前が満月の時俺を遠ざけていたのは、この日だけはアイツに襲われた記憶がどうしても蘇るからだ。



「大丈夫、今日でその記憶…全部、消してやっから」



優しく、あくまで優しく瞼や、頬、唇にキスをすれば震える体。
ホラ、普段は絶対こんなに怯えないのに…
お前はこの姿を俺に見せたくなかったんだな。



「なぁ花子、今からお前を抱くのは逆巻ライトじゃない。…お前の事を愛してる無神ユーマだ」



「…ゆーまく、…ゆーまくん………ユーマ君、」



俺の言葉にうわ言の様に名前を呼んで縋り付いてくる愛しい人をあやすように抱き締める。
大丈夫、怖い現実はここまでだ。



「今からサイコーに幸せな時間にしてやるからな…?」



鼻先が触れ合うんじゃないかって位間近で彼女の瞳を捕えて
安心させるようにそう言えばようやく…ようやく彼女は…花子は幸せそうに微笑んだ。



嗚呼、今日…
本当の意味で花子の全てを抱くんだと思うと
どうしてか酷く幸せで嬉しくて…



おもわず俺が静かに涙を零してしまった。



「なぁ花子…愛してる。全部、アイシテル」




駄目なお前も
怯えてるお前も
全部全部
丸ごと本気で愛してる。



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