13:物語が閉じる音


「…なんか花子が自分で立ってるの見ると泣ける」



「…ユーマ君、失礼。」




だって仕方ねぇよ。
こうやって普通に二人で並んで歩きながらデートって何日ぶりだよいつだってお前俺に抱えられながらのデートじゃねぇかよ。
あれ、言ってて泣けてきた。


今日はコイツの仕事が休みだからって久々にのんびりデートってやつを楽しんでる。


ああいう事があってから初めてのこうした時間に俺の心はどっか浮かれてしまっている。
小さな花子の手を離さないようにぎゅっと握って彼女の歩幅に合わせて歩くのはなんか…うん、幸せってやつだ。




「ユーマ君、私…しあわせ。」



「…うっせぇ、バーカ。」




噛み締める様にそんな事言うもんだから恥ずかしくなって乱暴にわしゃわしゃと彼女の頭を撫でる。
今はもう俺達の間に隠し事はない…と、思う。
花子を丸ごと全部愛してから以前にも増して彼女は俺にべったりだ。
多分後ろめたさってやつが無くなったからだと思う。



けれどやっぱどうしても変わらないところもある。



「うしっ、そろそろ腹減っただろ?なんか食いに行こうぜ。」



「…口動かすの面倒だからヤダ。」



「うるせぇ黙れぶっとばすぞこのクソ駄目人間死にてぇのかよ。」



そう、花子のこの性分である駄目人間っぷりは相変わらず健在で
いつも通り俺はこの馬鹿花子の世話をかかさない。



グイグイと彼女の腕をひぱってどっか店入ろうって思って
目の前の下りエスカレーターへと足を向ける。
二人で並んでゆっくり下って行けば何を思ったのか彼女は二段上へ上る。




「ユーマ君、」



「あ?どうした、花子…んぅ、」




不意に名前を呼ばれて振り向けば急に塞がれた唇。
花子とは身長差があるからこういった俺が突っ立ったままのキスとかはこれが初めてで
何か知らねーけど思わず顔に熱が集中してしまう。




ゆっくり、名残惜しげに離されれば彼女はとても嬉しそうに笑う。




「ゆーまくん、だいすき。」



「………うるせー馬鹿。」




ここが公共の面前とか、花子に彼氏ポジ取られちまったとかそんなの考える余裕もなくて
そのまま彼女を抱き締めれば途切れてしまったエスカレーターに躓いて二人でわらちまった。



こういう幸せ…続けばいいのに
なんて、柄にもないことを思ってしまった。




だから遠くでパタリと分厚い本が閉じてしまう音なんて全く聞こえては来なかったのだ。



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