3:お口をあけて?


「うしっ!今回も色んな野菜が獲れたぜ!」



「私は3分以上待たせる食物は認めないけどね」



「よし、表出やがれ花子」




喧嘩をおっぱじめようとしたけれど、花子はだらりと目の前の机に顎をのせて
今すぐにでも寝てしまいそうだった。
しかし、それはピピピと言うアラームによって起こされてのそのそと目の前のカップ麺を開け始める。
…おい、健康に悪すぎんだろ。



「全く…最近は5分も待たせる奴もあるよね。…300秒も私を待たせるとか、何様」



「お前が何様だよ」




俺のそんなツッコミなんか無視をして目を閉じながらずるずると即席めんを啜り始める。
…あれ、もしかしなくとも俺、コイツがカップ麺以外食ってるとこ見た事ねぇかも。


「おい、花子。野菜とかはとってんのか?」


「…世の中にはサプリと言う素晴らしい文明の代物がだねユーマ君」



「チクショウ!やっぱりか!!!」




不健康すぎるコイツの食生活に勢いよく机に頭をぶつけると
その衝撃で花子のカップ麺がばしゃりと零れ落ちてしまった。
あ、やべぇ…花子の貴重な食事タイムが。



そう思うや否や、予想通り彼女は怒ったりも泣いたりもせずもぞもぞとベッドへと移動し始めたので俺は全力で抱え上げて再び机の前に座り直させる。


ったく!隙あらば寝ようとしやがって!!ちゃんとメシ喰わねぇと餓死しちまうだろうが!!
つかこの世の中で、別に生活には困ってねぇのに餓死の危機とか何事だ。



そんな俺の思考をよそに花子の瞳は不満に満ち満ちている。
その視線は「貴様が食事を中断させたくせに何で寝かせないんだこのドS吸血鬼が」って言ってやがる。
くそう、俺はすげぇ優しい吸血鬼だと思う。



「あー…ちょっと待ってろ」



「ん?」




わしゃわしゃと花子の頭を撫でて、さっき収穫したばかりの野菜を抱えてキッチンへと向かう。
確かに花子のメシを台無しにしたのは俺だし、つかアイツの不健康すぎる食生活をどうにかしてぇから俺は一つ気合を入れて包丁を持った。




「オラ、食え。」



「んー?」



目の前に差し出された料理にくたりと首を傾げる。
取りあえず花子の健康に良さそうなのを片っ端から作ってみたけど
…そういや、俺花子の好き嫌いとか考えてなかった。



一気に不安になってきてしまって
もしかしたらコイツの食えねぇもんでも入ってるのかもしれないと思えば全身に冷や汗が出てきちまう。
良かれと思ってやったけど…コレ、もしかして有難迷惑って奴じゃねぇの?


けれど花子は何を思ったのかぐりんっと顔をこちらに向けて大きく口を開いた。
意味が分からず首を傾げれば、彼女もいっしょに首を傾げてしまう。



「あれ?ユーマ君がたべさせてくれるんじゃないの?」



「は?つか花子の嫌いなもんとか入ってんじゃねぇのかよ」



「大好きなユーマ君がつくってくれたものに嫌いなものなんてないけど」





………きゅんっ





いやいやいや!!!!きゅんっじゃねぇよ俺!!!
何ときめいてんだよ!!!馬鹿じゃねぇの!?
いやでも正直今の言葉はすげぇ嬉しいかもしんねぇ…



何か花子の言葉に感動しちまってじわりと涙を浮かべていれば
彼女の首はさらに傾く。



「?ユーマ君?あーん。」



「お、おう!!」




まるで雛鳥が親に餌を求めている様にもう一度口をあけた彼女に対して
反射的に一つ、作った料理を口に放り込む。
すると小さな頬を膨らませてもぐもぐと俺の料理を頬張る花子は反則級に可愛い。



「…うまいか?」



「あ」



おずおずと聞いてみれば返事の代わりに再び開かれる空になった口。
どうやら俺の料理は彼女に気に入ってもらえたようだ。



「おっし!どんどん食って大きくなれよ〜?」



「…成長期は過ぎてるけど?」




そんな彼女の言葉なんて無視して何度も彼女の口に料理を放り込む。
やべぇ、好きな奴にこうやって自分の作ったもの喰ってもらえるの、こんなに嬉しい事だなんて思わなかった。



「…なぁ花子、また作っていいか?…料理。」



「…ん、今度はおやつも作ってくれる?」



満足そうに微笑んだ花子からそんな言葉を聞いて、俺は今度「お菓子作り入門編」の本を買いに行こうと心に誓った。



…あれ?なんか俺、主婦に一歩近づいてねぇか?



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