7:長男vs駄目人間


「俺の弟を苛めるな」



「や、あの…ルキ、俺は別に…」



「ユーマは黙っていろ!!」



や、やべぇ…これは非常にヤバい。
いつも通り朝から晩まで花子の世話をしてて、どうもこうも寝不足で
立ちっぱなしで爆睡していればタイミングの悪い事にルキに見つかっちまった。

そして現状が全部ルキに把握されてしまったらもう大変だ。



「俺の弟は貴様の家政婦ではないんだぞ!!この家畜!!!」



「家政婦より私的には執事の方がきゅんきゅん来るかなぁ」




いつも以上にのんびりした口調の花子に溜息を吐きたいが今はそれどころではない。
鬼の形相で花子に掴みかかっているルキを宥めるのが先決だ。
兄貴に大事に思われてるのは嬉しいが何かこっぱずかしいわコレ。



「おいルキ、俺は好きでやってんだ。だから別に大丈夫だって…」



「しかし!これではあまりにもユーマが不憫すぎではないか!」



…や、うん。
それは俺もたまに思う。
…思うけども、



ちらり、花子を見てみればきょとんとしながらこちらを見てる。
何か彼女の目を見てたらどうしても放っておけない。
そんな俺達を見てようやくルキの手が花子から離れて溜息が響き渡る。



「はぁ…どうやら俺が思っていた以上にユーマはこの家畜に夢中らしい。」



「はぁ!?なななな、なんだよソレ!!!」




ルキの言葉に顔を盛大に赤くして反論するけれど
全然聞いてくれなくて、それどころかそんな俺を無視して花子にある提案を投げかける。



「オイ、家畜。ユーマが貴様しか見えていないのは理解した。しかしこのままではユーマが倒れてしまう。俺も貴様の面倒をみよう。」



…おい、どこがどうしてそうなったんだよ。
ルキは真面目ですげぇ頭がいい。
けど時々こうやって訳わかんねぇ事を言いだすし、一度決めたら撤回しないからたちがワリィ。
つか、何かそれは面白くねぇ。



花子が俺以外の奴に面倒みられるとか…なんか、



すると花子はすっげぇ不機嫌な顔になってこの恐ろしい参謀吸血鬼に反論。



「やだ。私はユーマ君以外はやだ。」



…きゅんっ。




や、だから、きゅんじゃねぇっつってんだろ俺!!!
でもヤバい。その台詞すげぇ嬉しい。
なんか、花子が俺以外を頼るのは正直嫌だったし…その、何か俺だけ特別みたいな…うん。



花子はのそのそと俺の後ろに隠れてぎゅっと服を掴んでルキを睨み上げる。
ルキの眉間には皺が増えてしまっている。



「貴様は最愛を過労死させる気なのか?そんな鬼のような彼女がこの世にいるか。」



「ゆーまくんはすごいんだから平気だもん。大丈夫だもん。」



ぎゅうぎゅう。
きゅんきゅん。



花子がそう言いながら必死に俺に縋り付く。
同時に俺の乙女心も大爆発だ。
ああもう!こんなクソ可愛い奴手放せねぇよ。



わしゃわしゃと花子の頭を撫でながら苦笑。
ルキ、ワリィけど俺この台詞で今まで以上にすげぇ頑張れそうだわ。




「全く…では本当に限界が来ればその時はユーマを貴様から取り上げるからな。」



そう言いながらでもどっか嬉しそうに笑ってルキは何処かへ行っちまった。
残された俺と花子の間に暫く流れる沈黙。
何か…すげぇ嬉しい台詞の後だからちょっと恥ずかしい。



「お、おい花子…っていってぇぇぇぇえ!!?」



ぎゅううううううぎりぎりぎり。
さっきからずっと俺に縋り付きっぱなしだった花子に話しかけようとしたけど
お前んな力どこに隠し持ってたんだって位スゲェ強い力で抱き締められれ俺の腰は崩壊寸前だ。
や、やべぇ…これ俗にいうサバ折りだ!!



「ちょ、おい花子!イテェ…いてぇって!!!」



「わたしは」



彼女をひっぺがそうとしてちらりと見えた花子の表情は未だに不機嫌だ。
そのでかい目を伏せたまままたこの馬鹿野郎は俺の心を握り潰した。




「私はユーマ君じゃないとやだ…ゆーまくん以外に触られたくない…」



「…………あーもう。分かった、わかりました。全力でお世話してやっから…もう黙れ。」



ホントこいつは俺がいないと死んじまう。
けど俺も多分、コイツの言動にそろそろ乙女心がぶち殺されてしまう。



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