8:赤い文字と戦場


「…ユーマ君がこんな無理矢理な人だとは思わなかった。」



「うるせぇ黙って花子は俺に抱かれてればいいんだよ」




会話だけ…会話だけ聞いてりゃ俺がすげぇサイテーな野郎だけれど
実際サイテーなのは花子だ。
こいつがあんなことしなけりゃ今俺達はココにいなくてもよかった…



降り注ぐ太陽。
長い行列。
オバサマたちのキツい香水の香り。



「花子がケータイゲームの課金しすぎて食費使い切るのが悪りぃんだぞ!?今日は卵おひとりさま1パックまで50円!!逃がさねぇ!!」


「ユーマ君だけでいいじゃん…2パックもいらないよおおお〜ベッドが私を愛してるって呼んでるのに…」



この大馬鹿野郎が調子に乗ってゲームの課金をガスガスしたおかげで今月の彼女の食費はほぼ0だ。


野菜類は俺の菜園でなんとかなるものの、他の栄養はどうにかして摂らせなけりゃならねぇ。
そんな時にみつけたスーパーの特売のチラシ。
少しでも激安商品を多く手に入れたい俺は頭数として花子を小脇に抱えてこの戦場へとやって来た。



「いいから黙ってこのまま俺の小脇に抱かれてろっつってんだよ。あ、開店する。」



開店の合図と共に花子を抱えたまま目的地へ猛ダッシュだ。
左手に花子という多少のハンデはあるものの、俺はなんたって身長190cmの男で吸血鬼だ。
そこらのオバサマをかきわけつつ、ちゃんと彼女もぶつからないように気を利かせながらも
愛しの卵ちゃんを2パック入手すればようやく一息つける。


…と、おもったら大間違いだ。



「おし!次は他の特売品だ!!」



「…ユーマ君、私疲れたよ。もう歩けない。」



「おい、お前いつ歩いたよ。そして何して疲れたんだ俺に抱かれっぱなしのオヒメサマがよく言うぜ。」



抱かれてるっつーのは勿論物理だ。
やらしー意味じゃねぇ。
こうやって小脇にコイツを抱えながらぶつぶつ文句を言う花子を無視して俺は赤い数字目指して店中を爆走した。





「はぁ…大量だぜ。これで暫くは生きていけんなお前」



「別に生きなくていいのに」



「うるせぇ黙れこのクソ駄目人間」



相変わらず俺に抱き抱えられたままぼやく花子に対して悪態をついても今日の俺はご機嫌だ。
右手には大量の食糧。左手には花子。
俺のほしいもんが今全部手の中だ。



そんな事を考えてたらぬっと伸びてきた小さな手。
息が分からずに首を傾げる。



「花子?どうしたんだよ。」



「ユーマ君…今日頑張ってくれたら、荷物、一個持つ。」




………じわっ。





あの花子が…あの!花子が!!!
自分から荷物を一つ持つとか…
しかも俺が頑張ったからそのお礼にとか…!
あ、やばい俺今本気で泣きそう。



感激しまくって固まってしまってれば今までぐったりと地面を見ていた彼女の顔がゆるゆると持ち上がりこちらを見つめる。
その眼は「はやく荷物をよこせ」と言っていて、
俺は少しばかり苦笑して一番軽い今日の目玉である特売卵を彼女に渡した。



ああ、何か…うん。
コイツは駄目人間だけどこうして素直に感謝してくれるのって結構俺は好きだ。




何もしない花子だけど
俺に好きとか愛してるとか、こういう感謝とかは…欠かしたことがなくて。
そう言うのにもしかしたら俺は惹かれているのかもしれない。




(「…………おい、花子。荷物持つのはいいけど俺に抱えられっぱなしで持っても俺の負担は軽くならねぇ。」)



(「…………ぐぅ」)



(「おいいいい!寝るな!!荷物、荷物がおち…っ!あああああ卵ぉぉぉぉ!!!!!」)



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