9:週一の密会


「オイ雌豚…今夜空いてんだろ?…イイよな?」



「ゆ、ユーマ君…うん、平気。」




こそりと雌豚の耳元でそう囁けば了承の返答に
俺は大いに満足して笑う。



そう、コレは週に一度の密会だ…






「花子はいい加減いつになったら自分で歩くんだよ!もう俺の腕の筋肉痛は通常運転ってか!?ふざけんな!!」



「私だってシュウさんを毎日毎日学校中運ばされて女の子なのに筋肉凄い事になりそうで泣きたい!!!」



「メスブツゥァ…!!!!」



「ゆーまぐぅぅぅん!!!!」




互いにジュースと栄養ドリンク片手に盛大な愚痴大会。
そう、俺と雌豚は週に一度こうして情報交換している。


何の情報交換可ってーと…



「ところで雌豚…この前はサンキューな。おかげで花子のヘアアレンジの種類増えたわ。」



「こちらこそ、腰に負担の掛けない運び方おしえてくれてありがとう!!シュウさん運ぶの随分楽になったよ!!」



俺は女の事よくわかんねぇから色々そこら辺を雌豚に
雌豚は体がちいせぇからあのニートをいかに楽に介護すっかを俺に
互いに必要な情報をこうして週一で交換してるって訳だ。



「…にしてもニートはえれぇよ。結構動いててよぉ…」



「そ、そんなに花子さんって動かないの?」



引き攣った顔の雌豚に対してデカイ溜息を吐いて項垂れてしまえば
響き渡る苦笑に二度目の溜息をついてしまう。


全く…せめて一人で生きれるくらいにはなってほしい。
アイツマジで俺がいなきゃ死んじまうレベルだ。
なんだよ、俺は花子の彼氏であって生命維持装置じゃねぇっつーの。




そしてこの時、俺はこれから起こるであろう修羅場にもならねぇ修羅場が起こるなんて
全く…これっぽっちも思っちゃいなかった。






「…おい花子、なんだコレ。」



「…………ゆーま君が浮気したから掛け布団を新しくしてみました。」



「……………ぐぅ。」




おい、只の人間が逆巻家の長男を掛布団にするとか随分豪華だな。
…じゃねぇし!!!



「オイ!ニート!!花子の上からどきやがれ!!!何どさくさに紛れて抱き付いてんだ!!俺の彼女だぞ!!!」



「…わざわざここまで来てやったんだから寝かせろよ。ふぁ…」



「わざわ御足労しやがってコンチクショウ!!!やっぱニートの方が花子より動いてる!!つか今はそんな事どうでもいいんだっつーの!」



いつもの様に花子の家に上がり込めば相変わらずベッドで爆睡してた花子。
でもその上に覆いかぶさってたのは昨日盛大に愚痴のネタになってたニートだった。


つかお前俺が浮気ってなんだ、何でニートが花子の事知ってんだ。
そしてどういう関係だよ!!!いやもういいからどけっつってんだろ!!!


べりっとニートを花子から離せばじとりと俺を睨みつける彼女に若干たじろいでしまう。
な、何だよ…俺、何も悪い事してねぇのになんでこんなに背中に汗かいてんだよ。



「…ゆーま君の浮気者。」



「だから俺は別に浮気なんてしてな………あ、」




はたと、昨日雌豚といつもの会議をしてそのまま花子の家へ上がり込んだのを思い出す。
え、ちょっと待て…コレ、俺の自惚れじゃないならもしかして
…もしかして。



じっと花子を見つめれば
そのでかい目を伏せて小さく呟いた。




「……………わたしだってやきもち位やくし。」



「……ああもう、」



彼女の小さすぎる声にその場にへたり込む。
どうやら花子は昨日俺についていたであろう雌豚の香りに気が付いてずっと不機嫌だったようで…


んだよ…俺が浮気したと思って拗ねてニート呼び出して自分の浮気もどきってかオイ可愛い事してんじゃねぇよバカ。
つか浮気もどきする時くらい自分で動け。相変わらずかよお前は。



「あーもう、俺は浮気してねぇよ馬鹿。雌豚とは介護の情報交換してただけだっつーの」



「…………ほんと?」



「花子の世話してんのに浮気してる暇ねぇだろーが。」



未だに信じきれないと言う目で訴えてくる花子に苦笑してしまう。
馬鹿、無気力スーパー駄目人間なくせにいっちょまえに不安になってんじゃねぇよ。



わしゃわしゃと花子が大好きな俺の手で頭を撫でてやれば
ようやく気持ちよさそうにその眼を細める。
はぁ…どうやら俺の週一のお楽しみもお開きのようだ。



花子を不安にさせてまで続けるもんじゃねぇ。



「花子、不安にさせてごめんな…」



「…ユーマ君がご飯作ってくれるなら許してあげる。」



「おい、ユーマ。俺にも出張代寄越せ。レアステーキな。」




可愛すぎる花子の言葉の後に力のなさすぎる抑揚のねぇ声にビキリと青筋を浮かべて
花子を抱え上げまくって、鍛えられた腕でニートを抱え上げて盛大に家から放り出した。



「ニートはニートらしく家から出てくんな!!二度と花子に近付くんじゃねぇぞ!!!レアステーキなら雌豚にでも作らせろバーカ!!!」



デカ過ぎる悪態ついて扉を閉めて一つ溜息。
さて、なんだかんだで俺の事が大好きすぎる花子のご機嫌を今日も取るといたしますか。



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