風邪〜アズサ君の場合〜


もふもふ。
重い、そしてあつい。


「花子さん…まだ寒い?」


「え、えっと…もう十分すぎる位あついかな。」


アズサ君は私の答えにまだまだ悲しそうにしょんぼりしてしまっている。
ああもうこれも何もかも全部私を今苦しめている風邪の所為だ。


ゲホゲホと咳込めば私では無くアズサ君はじわりと涙を浮かべる。
ベッドの傍でちょこんとしゃがんでじっとこちらを見つめる目は不安で揺れてしまっている。


くそう、私の可愛いアズサ君にこんな顔をさせた風邪ウィルスマジぶっとばす。
そんな物騒な事を考えつつも自分の上に何枚も重ねられた毛布に苦笑。


これは悪寒がすると呟いた私を心配したアズサ君の愛の結晶とでも言えるだろうか。
その細い身体で一生懸命沢山毛布を持ってきてくれてどさりとかけてくれた。
正直重いのだけれど彼の行為の方が嬉しくてそのままにしている。


気が付けばぎゅっと手を握られていて、驚いてアズサ君を見ると
へにゃりと悲しそうな顔で微笑む。


「ごめんね…俺にはこんな事くらいしか出来ないから…花子さんが淋しくないように…傍に居るだけしかできないや」


「アズサ君…」



そんな可愛いこと言わないでくれ、私は心の中でそう叫びつつも
もう我慢の限界で思いっきり力を入れて彼をベッドの中へと引き摺り込んだ。


「え、花子さん…?」


「傍に居てくれるんでしょう?」


戸惑ってしまったアズサ君にぎゅっと抱き付いて彼の胸に擦り寄れば
まだ彼からは抱き締めてくれなくて、どうして?って目で訴えれば
未だに揺れる瞳で彼は震えながら呟くのだ。



「だって…俺は、体温がないから…花子さんが、寒い思い…しちゃう…」


「なぁんだそんな事。」


オロオロするアズサ君に向かって微笑みかけてまたぎゅうぎゅうと抱き付いた。


何度か背中に彼の指が触れるけれど、触れては離れ触れては離れての繰り返し。
ああもう、抱きしめたいのなら抱き締めてくれたらいいのなぁ。
酷く優しいアズサ君にふふふって笑ってしまう。


「大丈夫。アズサ君に抱き締められたらドキドキして身体が熱くなるから。」


「………本当?」


「うん、だから…ね?」


強請るように言ってみればアズサ君は嬉しそうに微笑んでようやく私を抱き締めてくれた。
すこしばかり冷たいその感覚はとても心地いい。


そんな幸せな感覚にうっとりと瞳を閉じれば、何度も何度も頭を撫でてくれるアズサ君が愛おしくなって思わず今の自分の状況を忘れて彼にキスをしてしまった。


するとキョトンとした彼は何度か目をぱちくりとしていたが
ぼふんと音を立てて顔を真っ赤にしてしまった。


「ご、ごめん!アズサ君!私風邪ひいてるのについ…!」


あわあわと慌ててしまった私を黙らせるようにアズサ君が唇に噛みつくようなキスをする。
驚いてしまい今度は私が目をパチパチする番だ。


すると唇を離した彼が真っ赤になったままぷくーっと頬を膨らませて拗ねたような表情で呟いた。


「花子さんの風邪…うつっちゃった…俺、すごく…身体、熱い…」


「そ、それは…、それは…っっ!」


そんな可愛いアズサ君を目の前に何もしないという選択肢は私には存在しなくて
これでもかっていうくらい力いっぱい彼を抱き締めて掠れた声で叫び散らす。


「それは一生治らない恋の病ですー!」



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