駄犬な私
「花子、そろそろルキのトコ行く?」
「何で!?酷い!私に飽きちゃったの?シュウ君!」
「いや、飽きたって言うか…」
直立不動のシュウ君にぐるりと抱き付いていれば大きくて長い溜息。
そして呆れたように優しく私の頭を撫でてくれる。
ううん、とっても気持ちいい。
「ここまで躾できないならドックトレーナーの所へ通わせるのが俺の役目だろ…」
「そ、それは私にもルキ君にも失礼すぎる!」
大きく喚けば煩いって唇をキスで塞がれて、嬉しくてまたぎゅうぎゅうと抱き付く。
だってだって仕方ないよ。私はこんなにもシュウ君が大好きなんだもの。
「花子は盛りのついた雌犬な訳?首輪付けて俺が躾けようか?」
「シュウ君なら大歓迎だけど!」
そう言えば徐にヒヤリとしか感覚が首に。
思わず自身の首を見てみれば可愛らしいピンクの首輪。
シュウ君からのプレゼントは何でも嬉しいから喜びを表現するかのようにすりすりと彼に頬擦りしていれば私への死刑宣告。
「花子、ステイ。」
「やだ。」
「…おーい、レイジ。生ごみって何曜だっけ?」
「わわわっ、ご、ごめんなさい!ごめんなさい!シュウ君ごめんなさい!」
大慌てで彼から離れてキッチリ姿勢を正して正座する。
すると首輪についている鈴がチリンと鳴る。
それが何だか楽しくてゆらゆらと体を動かして何度も鈴を鳴らしているとシュウ君がガッシリ私の肩を掴んで体を固定させる。
「花子、音楽が台無し。」
「うえーん!シュウ君ごめんなさい!許して―!」
酷く怖い顔で凄まれてしまえばもはや半泣きである。大好きな人に怒られて平気でいるほど私のメンタルは強くない。
するとシュウ君はまたイヤホンをはめ直して私に酷い事を言うんだ。
「罰として暫くステイは続行。」
「ひどい!酷いよ、私にシュウ君不足で死ねって言うの!?ドS吸血鬼はやることが残忍すぎる!」
「あのなぁ…俺の事好きすぎるだろ…」
酷く呆れられてしまい、しょんぼりである。
けれどいつまでここにいてしまえば数秒後には我慢できずシュウ君に抱き付いてしまうだろう。
そうすればきっと私は生ごみ行きだ。
それだけは避けたくてがっくり肩を落としてシュウ君の部屋を後にする。
うぅ…引き留めてもくれない…やっぱり私ばっかりがシュウ君の事大好きなんだよねぇ。
悲し過ぎる現実に泣きたくなったけれどそこはぐっと堪えて涙が零れる前に自身の部屋へダッシュ。
チリンと悲しげに首輪の鈴が鳴り響く。
「うぅぅ〜…片想い辛いぃ〜!」
ベッドに体を投げ出して枕に顔を埋めこんで嘆く言葉に応えてくれる人物は誰もいない。
酷く虚しくて悲しくて我慢していた涙をボロボロ零す。
シュウ君はキスもしてくれるし抱き締めてくれるけど一度も私に好きって言ってくれたことはない。だからこれは私の盛大な片想いだ。
「シュウ君以外の人を好きなればよかったのかなぁ」
小さく呟いてもそれはあり得ない事で、小さくため息。
ゴロリと寝返りを打てばまたチリンと首輪の鈴が鳴る。私の部屋に響く無機質な音。
私も無機質になれればこんなに苦しくならずに済んだのかな…
そんな事を考えながらベッドに沈んだ体と共に意識も夢世界へと沈めていった。
「………むぁ?」
徐にパチリと目を開けたら何か青い布が一面に広がっていた。
ん、アレ?これ見覚えある…
何だろう…ぐりぐりとそれに頭をこすりつけると漏れる吐息と不機嫌な声。
「ちょっと、花子…くすぐったい。」
「しゅ、しゅうくん!」
驚いて勢いよく顔を上げれば私の石頭が彼の顎にクリーンヒットしてしまい、仕返しとばかりに勢いよく額に頭突きをされてしまった。
い、痛い!痛すぎる!…ていうかどうしてシュウ君が私の部屋にいるんだろ?
涙目になりながらシュウ君を見つめれば私の疑問が分かったのか大きな溜息をついて私をぎゅうぎゅうと抱き締めてくれる。
「もうステイ終わり。」
「ほ、本当!?」
シュウ君の言葉が嬉しくて嬉しくて私からもぎゅうって抱き付けばまた溜息。
「ホント…俺の事大好きだなぁ花子は」
「うん!大好き!片想いでもだいすき!」
笑顔を崩さないでそう言えばまた盛大な溜息が聞こえる。そして不意にちゅっと私の唇にシュウ君のそれが重なった。
そしてすごく不機嫌顔のシュウ君が視界に広がる。
「言わなくても察しろ馬鹿」
「え、それって…それって…!」
ぶわわっと感激で涙をあふれさせれば優しく唇で掬われてぼぼぼっと顔を赤くしてしまう。
そんな私を見てシュウ君は意地悪な笑み。
「花子におあずけさせたのに、俺がおあずけ食らった気分だった。」
「う、うぅ…シュウ君だいすきー!」
先程まで近付く事も出来なかった彼を補うように抱き付く腕に誠意一杯力を込めて何度も何度も自分からだいすきのキス。
「ちょ、花子…ん、まて、…んぅ…コラっ!」
「やだやだやだやだー!もう待たない!ステイもうヤダ!」
ヒステリックに叫び散らして可愛い首輪を引きちぎる。そもそも私にこんな可愛らしい首輪は似合わない。
だって私は育ちの悪い躾が出来ない駄犬なんだもの。
「はぁ…もう、躾…めんどくさ…おいで、」
何かを諦めたかのように呟いたシュウ君がグッと私の頭を掴んで彼へと引き寄せてくれたから
私は喜んで彼の唇に噛み付いた。
ベッドの端に投げ飛ばされた無残な姿になった可愛らしい元首輪が解せぬとこちらを傍観していた。
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