コウ君の場合


「はい、花子ちゃーん!愛しいのコウ君のご登場だよ★」


「え、こ、コウ君!?あれ!?」


今まで部屋でひとりきりでコウ君が出演しているドラマを見ていたら
いきなり実物が現れてびっくりしすぎて声が裏返る。
そんな私とテレビを覗いたコウ君がにやにやと顔を覗き込んでくる。


「なになに〜?俺が傍に居ないからテレビの中の俺にキュンキュンしてた感じぃ〜?」


「ちが…うく、ない、けど…」


恥ずかしくて次第に小さくなっていく声に対して嬉しそうなコウ君はそのまま私をぎゅっと抱きしめてくれる。


「本人来たんだからもうこっちの俺には用はないよねーっと!さ、デート行こうか!」


「え、あ、まって…まってコウ君!」


手際よくテレビの電源を消してそのままぐいっと私を引っ張って外へと飛び出す。

どうしたんだろう、今日はデートの約束どころか会う約束さえしてなかったのに…

疑問に思いながらもコウ君に会える上いつも忙しい彼とデートできるのはすごく嬉しいから
そのままコウ君の足について行くことにした。


それからは本当に、本当に楽しかった。
遊園地へ行ったり、ゲームセンターに行ってプリクラ撮ったり
挙句の果てにはカラオケに行ってアイドルであるコウ君の生歌まで聞けてしまった。


「ああー!楽しかったぁ!」


「ふふ…よかったぁ…」



ベッドの上でぎゅうぎゅうと私を抱き締めながらいつもよりゆっくりな口調で答えるコウ君を不思議に思って
顔を上げればそこにいたのはとても優しく微笑んでるけれどうつらうつらしたコウ君。

ああ、そっか…いつもいつもお仕事だもんね。忙しい合間を縫って丸一日私に付き合ってくれたんだもん、そりゃ疲れちゃうよね…


彼の頭をゆっくり撫でてあげる。
すると幸せそうに目を細める彼はとてもかわいい。


「ふふ、眠っていいよ?…おやすみ。」


「ん、やぁだ…まだ…だめ、」


もう既に意識が朦朧としているだろうに
うとうとしながらも必死に目を開けながら何度も首を横に振る。

どうしたのかなぁ…?私としてはもうゆっくり休んでもらって明日も元気な彼でいて欲しいだけど…?
コウ君はちらりと時計を見て小さく呟く。


「あと三分…」


「コウ君?」


「ねぇ花子ちゃん…」


ぎゅっと私を抱き締める腕に力が籠められる。
けれど苦しくはなくて酷く心地いい。


「今日は、楽しかったんだよね?」


「?うん。」


「俺といれて…幸せだった…?」


「うん、幸せだよ?」


本当にどうしたのかな?
コウ君がこんな事聞いてくるだなんて珍しい。
いつもなら「アイドルの俺と一緒にいれるんだから楽しいにきまってる!」って自信満々なのに。
そんな事を頭の中で巡らせればふにゃりとほっとした様に笑うコウ君。


「よかったぁ…俺は、花子ちゃんの誕生日…楽しませてあげれたんだね…」


「………あ、」


彼の言葉でようやく気付く、今日が私の誕生日だったと言う事に。
と言う事はもしかしてコウ君は無理をしてこの日の為に休みを作ってくれたの?
嬉しくて嬉しくてじわりと涙を浮かべてしまう。


「いつも仕事ばっかりで…構ってあげれなくて、ごめんね…?」


「ううん、平気…」


「俺のファンに苛められてない?…大丈夫?」


「だいじょ、ぶ…だよぉ…」



いつもより酷く優し過ぎる言葉の応酬にもう私の涙腺は破壊されてしまう。
ボロボロ泣きながら彼の胸に縋り付けばくすぐったいって笑われたけれど拒むことをしないコウ君は本当に優しい。
ああ、なんて幸せな誕生日なんだろう…


「ねぇ、花子…ちゃ、」


抱き締められてる腕の力が弱まる。
もう間もなくコウ君は夢の世界へといってしまうんだろう。
そんな愛おし過ぎる彼の言葉を待ちながらチラリと時計を見やればあと数秒で私の誕生日が終わろうとしてる。


「だい、すき…だよ…世界中で、いちばん…あいしてる…」



彼の告白と共に遠くから鐘の音が鳴り響き
私の史上最高の誕生日は幕を閉じた。


そして既に眠りに落ちてしまった私の愛しの王子様にありがとうと、そっと唇にキスをした。



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