溺愛〜アヤト君の場合〜


「アヤト君ってさぁ、ホント酷い男だよね。」


「おい、なんだ花子突然ケンカ売ってんのか?あぁ?」


私のつぶやきにごちんと大きな音を立てて頭突きをかましてくるアヤト君。
い、痛い!仮にも乙女の私に向かって頭突きだなんて!こ、このドS!


「俺様のどこが酷い男だって?すげぇ優しい紳士じゃねぇか。」


「全国の紳士に謝ってこいバカ!」


負けじと私も彼に向って思いっきり頭突きをかましてやればどうやらそれはアヤト君の顎にクリーンヒットしたらしく鈍い音と共に盛大に倒れてしまった。


「いってぇ…何すんだ馬鹿花子!」


「だって!アヤト君が私を大切なものとして見ていないのが悪い!」


そう、それは数日前。
ユイちゃんとアヤト君がお話しているのをこっそり後ろから見ていた時だった。
彼女が「そう言えばアヤト君は大切なものとかないの?」って聞いたらアヤト君は暫く悩んだ後「そーいやねぇな」って言いやがったのだ。
この、私と、いうモノが!ありながらである!


「酷い…酷過ぎる…アヤト君にとって私は大切なものじゃなかったんだ…私はこんなにアヤト君が大好きなのに…」


「はぁ?当たり前だろ?」


ぐさり。
アヤト君のその言葉は私の心をみじん切りにしちゃうくらい酷いモノで
じわりと涙を浮かべれば不意にわしゃわしゃと乱暴に撫でられる頭。
不思議に思って顔を上げるとアヤト君が困ったように微笑んでいた。


「花子は“モノ”じゃねぇもんな。」


「アヤト君…」


今度は先程とは違った意味の涙が私の瞳を濡らす。やだ、すごく嬉しい。
すごく嬉しいけれどこの後のアヤト君の言葉に私は顔面を大爆発させる。


「アレだ、傍に置いとかねぇと不安になるし、寝顔見てると胸のあたりがギュってなるし、抱き締めてる時とかすげぇ安心するよな。後何だ、血吸われてる時のお前の声もたまんねぇし…アレ、こういうのってなんつーんだ?花子知ってっか?」


「え…う、うん…や、その…」


指折り私への感情を表していくアヤト君にもう私の顔面は沸騰してしまいその場にへなへなと座り込んでしまった。

馬鹿だ…前々から思ってたけどアヤト君馬鹿だからこういう恥ずかしい事普通に言ってくる。
そんな事を考えてるとアヤト君は私の前にしゃがみ込んで目線を合わせる。


「おい花子どうした?貧血か?ちっと吸い過ぎたか俺。…それともなんかの病気か!?」


「や、ちが…っわ!」


見当違いの解釈をしたアヤト君は勢いよく私を抱き上げてそのまま猛ダッシュ。向かう先はどうやらレイジさんの部屋のようだ。
え、何どういう事?


「オイ、レイジ!何か薬くれ!花子が変なんだ!」


大きな音を立ててレイジさんの部屋を蹴破れば、彼は盛大にため息をついて
そのままぐいぐいとアヤト君の肩を押して部屋から追い出そうとする。


「申し訳ありませんが花子さんの病は治せませんよ。」


「そ、そんなに悪いのか!?お、おい花子!何で黙ってたんだよ!俺様そんなに頼りねぇのか!」


レイジさんの言葉に顔面蒼白のアヤト君は腕に抱きとめている私に向かって盛大に叫ぶ。
そんな彼を見ていたレイジさんがまた大きくため息をついて何か小さな小瓶をアヤト君に渡した。


「ん、薬か?」


「ええ、媚薬です。」


「は、話がかみ合ってませんレイジさん!」


何とんでもないモノを渡してるんですか!大慌てでアヤト君の腕の中で暴れればすぐさま抑えつけられてしまった。


「ばっか!花子は病気なんだろ!?暴れんな!死ぬ!」


「死なないし!」


「ああもう喧しい。もういいでしょう。早く出ておいきなさいこのバカップルが!」


遂に限界が来たのかレイジさんは一つ大きな声で叫べばそのままぽーいっと私達を部屋の外へと放り投げてそのままガチャリと部屋のカギを閉めてしまった。

放り出された私達は暫く呆然としていたがアヤト君が徐にぎゅっと私を抱き締めてきたのだ。


「あ、あの…アヤト君?」


「おい花子、ぜってぇ死ぬんじゃねぇぞ。俺様がどんな病気からも守ってやるからな。」


ああもうこのお馬鹿吸血鬼本当に格好いい。
締め付けられる胸の苦しさは既に限界を超えてしまっていて私はその衝動のまま彼に抱き付いた。


「ねぇアヤト君、レイジさんにもらった薬、飲ませてくれないかな?」


今日は薬の力に頼ってでも素直になりたい気分だ。レイジさんの言う通り私は不治の病だ。勿論病名は恋の病。


滅多に自分からしない口付けを彼の唇に落とせば一瞬驚きで目を見開いていたが嬉しそうに口角を上げる。


「よし、じゃぁ紳士な俺様が口移しで飲ませてやんよ。」


「だから…全国の紳士に謝りなさいね。」



自信満々な彼に一つ苦笑を落として私はまた一つ彼の唇に噛み付いた。



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