風邪〜ライト君の場合〜


「んふっ、風邪と言えばお医者さんごっこ!」


「うぅ〜…ご、ごめん…ライト君ホントごめぇん…」


嬉々として白衣やら眼鏡やら聴診器やらを持って期待のまなざしでこちらを見つめてくるライト君に私は掠れた声で平謝りだ。
そんな私を見てライト君は首を傾げてしまう。


「えぇ〜!?今更恥ずかしいからヤダとか言わないでよね花子ちゃん!」


「そうじゃない…そうじゃないの…コレ、が…」


「………え、」


しょんぼりとしながら指をさした大量の書類とノートパソコン一台に先程まで笑顔だったライト君が凍り付く。


そんな彼に苦笑いしつつ、おぼつかない足取りでパソコンの前に座れば後ろからぎゅっと抱き付いてくるライト君。


「ちょちょちょっと花子ちゃん、まさかとは思うけれどこの状態でお仕事!?」


「だいじょーぶだよ〜簡単な入力だけだから今の私でもできるしぃ」


「そーいう問題じゃないでしょ!」


抱き付いたままぎゃんぎゃん叫ぶライト君の声が脳内に響き渡る。
確かに仕事の効率は落ちてしまうかもしれないけれどやらないよりかはマシだ。


それに風邪といってもそんなにたいしたことはない。
只の微熱だし、ちょっと声が掠れているだけで大袈裟なものじゃないのだ。

けれどライト君は納得してくれなかったようで、起動中のパソコンに映り込んでいる彼の顔は非常に不機嫌顔だった。
そしていきなり抱き締めたままひょいっと私の身体を持ち上げる。


「え、ちょ…ライト君…?」


「だぁめ!今日は寝るの!絶対!ぜぇ〜ったい!」


ずんずんと大股で進んでいって、ベッドに到着するとぽーいって身体を投げ飛ばされてしまった。
ぼふんと、柔らかいソコに着地すればいつの間にか隣に潜り込んでくる彼。


「ええっと、ライト君…?どうしたのその顔…カワイイけど」


ぷくーって頬を膨らませてこちらを睨んでくる彼はちっともこわくない。
寧ろ可愛くて思わずむにむにと膨らませてる頬をつついてしまった。
すると彼はその指をそっと握ってそのままキスをする。


「今日はお仕事も、お医者さんごっこもなし。寝よう?」


「え、ライト君がシないとか…えぇ…世界が滅びる…」


「もーもーもー!僕は只花子ちゃんが心配なだけなのにこの扱い!」


ぷんすこ怒っちゃったライト君は相変わらず可愛くて思わず笑っていると整った眉をはの字にして指を握っている手に少しだけ力が入る。


「花子ちゃんは僕達と違って弱い生き物なんだから…大切にしたいだけだよ。」


そんな突然の告白に私は嬉しくて嬉しくて思わず彼に抱き付いた。
すると一瞬だけ身体をこわばらせたけれど優しく私をゆっくりと抱き締めてくれる。
ああ、私ってライト君に愛されてるんだなぁ…


「今日中に治して明日…お仕事がんばるね。」


「勿論お医者さんごっこも頑張ってね、んふっ」


…まだ忘れてなかったのか。
少しだけ優しいけれど、それでも通常運転の彼に思わず苦笑して抱き付いた腕に力を込める。



「恋の病も治して下さるんですか?センセイ?」



ふざけてそんな事を言ってしまえば
「ちょっと僕の理性を台無しにする台詞は禁止!禁止だからね!」
なんて理不尽な理由ですごく怒られてしまった…


全く、けれど私の為に必死に我慢してくれてるライト君には悪いけれどぎゃんぎゃん喚いちゃう彼が可愛いなぁって思ったのはナイショの話。



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