溺愛〜ルキ君の場合〜


最近神経がいきり立っているのか分からないけれど、どうにも眠ることが出来ない。
なので、寝不足の日が続いている…

今日も今日とてベッドにもぐりこんだのはいいものの、どうしても眠りにつくことが出来なくてため息をついて何か飲もうとリビングへと足を向けた。

真っ暗で静かなそこは少しばかり怖くて、早く何か飲み物を取ろうと思って冷蔵庫を開ければ不意に背後から柔らかい声。


「花子?こんな時間にどうした。」


「あ、ルキ君。」


私の姿を見て少しだけ驚いたような表情をしたけれど、小さく息をついてこちらへと歩み寄る。
そして不意に目の下に触れる綺麗な指先。


「隈が出来ている…どうした?」


「ん、最近眠れなくて…」


不安げに問われて、思わず苦笑。
体調管理も出来ない家畜とか怒られてしまうだろうか。

けれど私の予想とは裏腹にルキ君は何かを思いついたようにそのまま冷蔵庫を漁り始める。


「ルキ君…?」


「ああ、少し待っていてくれないか。」


ニコリと微笑まれればもう言う事を聞くしか選択肢はなくて私は大人しく彼の行動を見守る。
何かを作っているようだけれど…


「ホラ」


「ホットミルク…」


少し時間を置いて差し出されたのは真っ白いホットミルク。
言われるがままに受け取って一口飲めばいつも飲んでいるそれよりもどうしてかふわりと体が柔らくなる感じがする。


「ルキ君…何か入れた?」


「そうだな、花子がよく眠れるように魔法をひとつ。」


するりと唇をなぞられるけれど今はそれさえも心地よくて先程まで過敏になんていた神経はまるで初めからなかったかのようにふわふわと微睡み始める。

何だか数日ぶりによく眠れそう…だけれど、
うつらうつらと首を動かしながらもうあまり働かない脳内で考えている言葉を口にする。


「おへや…もどらなきゃ…ねむ、い…」


「ここで眠ってしまっては風邪をひくものな。」


小さく笑うルキ君でさえ今はぼやけてしまっている。嗚呼、戻りたいのにもう体の言う事がきかないくらい私は眠い…

するとルキ君はそんな私を見つめてそのまま抱き上げてくれた。


「仕方ないから運んでやろう。」


「あり…がと…ごめ、なさ…」


「構わないさ」


そんな言葉と共に何度か降ってくるだいすきな彼の唇。
嬉しくて自分からもキスをしたかったけれどもう落ちかけている意識ではそれはかなわない。

そのままされるがまま彼に運ばれていれば見覚えはあるが私のものではないベッドの上。


「ルキ君の、へや…?」


ふわりと全身を包み込む香りは紛れもないルキ君のもので心地よすぎるこの空間は更に私の意識を夢の世界へと引き摺り込もうとする。

ルキ君はそのまま私の隣に潜り込んでぎゅっと抱き締めてくれてまた優しいキスをくれた。


「今日は一緒に眠ろうか、花子。」


「ん…」


優しく頬を撫でられてもう私は抵抗できずそのまま瞳を閉じた。
ちゅっと瞼に唇の感触がして落ちていく意識の中、彼の声が遠くに聞こえた。


「いい夢が見れる魔法だ」


「ルキく…まほうつかい、だったの…?」


とぎれとぎれに問えばクスクスと小さな微笑みと今度は唇にキス。
ああ心地いい。


「知らなかったのか?俺は花子だけの魔法使いさ。」


嗚呼、すてき…
だからルキ君は眠れない私をこんなにも簡単に夢の世界へといざなってくれる。
そしてきっと悪夢からも私を守ってくれるんだ。


「ねぇ…ルキ、くん」


「ん?」


もう殆ど働いていない思考回路からはじき出されるのは私の本音。
優しく私の言葉を待ってくれるルキ君がだいすきよ。


「だい、すき…あいしてる…」


「ああ、知っているさ。俺は魔法使いだから…花子の考えは全部分かるよ」


優しそんな言葉と共にか私は完全に意識を落とした。
だから最後に送ってくれたルキ君の言葉も、ふんわり口の中に広がるブランデーの味にも気付く事はなかった。



「おやすみ、花子…愛している」



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