しょっぱいたこやき


「ぅ…うぇ…っう…っ!」



地べたに這いずって先程口にしたものを吐きだす。
嗚呼、これにも毒が入っていたのか…




「花子、アヤト様の晩餐はどうだった?」



「う、はい…こちらは安全でしたが、こちらには毒が…うぅ、」



「そうか、では安全なこちらだけ晩餐に差し出そう。」





私の報告に淡々と相槌を打った上層部が安全なものだけをアヤト様へと運んでいく。
彼は…アヤト様はカールハインツ様のご子息だというだけでこう言った食事に毒を混入される事がしばしばある。
王の子息というのは妬み僻みの格好の餌食なのだ。




「う…はぁ、…あ、」




だから私のような彼が口にするもの全てをチェックする毒見係は必要不可欠で…
けれど私はこの立場を嫌だとも思わないし、恨んでもいない。





「あ、アヤト様だ。」



フラフラと城内を歩いていれば私が陰ながらお守りしている主の姿。
私のような立場の者が彼の前に現れるのは許されないのでこっそり柱の陰で見守らせていただく。




チラチラと何かを探しているご様子だけど…一体何を?
けれど目的のモノを見つけることが出来なかったのか、彼はしょんぼりと肩をおとしてそのままトボトボと何処かへ行ってしまった。




それが城で見かけた最後のアヤト様の姿だった。






あれから数年、アヤト様は…彼らご兄弟は人間界へ移り住んだので
この城にやってくることは滅多になくなってしまった。
それと同時に毒見もお役御免となったのだが正直寂しい。



アヤト様のあの屈託のない笑顔をお守り出来ているんだと思うと
あの役割も全然苦ではなかったし、寧ろアヤト様を守る事が出来ているという事実が何よりも幸せだったのに…




「あー!!いた!!!オイ花子!!!」



「え…?あ、アヤト様!?」




聞き覚えのある声で名前を呼ばれて勢いよく振り返れば
そこには成長されたアヤト様のお姿。
とても立派になられてどうしてだか私の胸はドキリと高鳴ったが今はそれどころではない。
ど、どうしてアヤト様が私の名前を存じて居られるのだろう…
私は彼の前に現れたことなんてないというのに。



緊張と驚きでビシリと固まっていれば乱暴に手を彼に取られてそのままぐいっと引っ張られてしまう。
え、なに…どうしたのですか?
よく分からないままずんずんと向かう先は庭園。
アヤト様の空いた手には何が入ってるかわからないけれど小さなビニール袋。





「えっと…ええと、ええと。あや、アヤト様…あの」



「ん!」



連れて来られた庭園で無理矢理ベンチに座らされてどうすればいいのか目が泳ぐ。
ようやく紡がれた彼の名前は緊張しすぎて裏返った音になってしまい申し訳なさで涙が浮かんでしまう。
あ、アヤト様のお名前をこんな声で呼んでしまうなんて…っ!



けれど彼はそんな私なんか気にも留めずにずいっと先程持っておられた小さなビニール袋から
何か更に小さなものを取りだしてこちらに差し出してきた。
意味が分からず首を傾げれば彼がその箱をパカっと開けて中の丸いものをひとつ、ぷすっと爪楊枝で刺して私の口元に充てる。




あ、あつい!!!



「あ、あや…あつっ!」



「花子、ホラ食え!!俺様はずーっとお前に礼がしたかったんだ。」



よく分からない彼の言葉。
でも食べろと仰るならとその熱くて丸いものを口に入れた。
とろりと何か温かなものが口の中に広がる。



もぐもぐと言われるがままに口を動かしていれば彼はとても嬉しそうに笑ってくださった。




「どうよ、毒かもしれねぇって怯えずに食う気持ちは。」



「んぐ…っアヤト様…どうして、それを…」



彼の言葉に驚きが隠せない。
どうして…どうして知ってたんだろうか。
この事はご本人には知られないよう、秘密裏に行ってきたことなのに。



酷く驚き、じっと彼の綺麗な瞳を見つめ続ければ
言いたいことを察してくださったのか得意気に微笑みながら先程の丸いものを彼もぽーいと口に放り込む。
ど、どうしよう!そんな毒見していないものを口にされてしまった!!


「俺様が知らねえ事はねぇんだっつーの。…ああ、後これも人間界の食いもんだから安心しろ。毒なんて入っちゃいねぇよ。」



そんな彼の言葉に思わず胸を撫で下ろせば不意にぽんぽんと優しく頭を撫でられた。
こんな事をされる理由がないので私は頭上にはひたすら疑問符が浮かび上がる。




「花子にずーっと礼が言いたかった。でも花子は俺様の前に現れてくんなかったから…今まですげぇ時間かかったんだぜ?」



「あ…で、ではもしやあの時お探しだったのは…」




不意に蘇る記憶。
幼いアヤト様がキョロキョロと辺りを探してたのはもしかしなくとも私?



そんな事実に動揺が隠せない。
けれどアヤト様はそんなのお構いなしだ。
ぎゅっと私の手を握ってニッコリといつだって変わらない無邪気な笑顔を向けてくださる。




「花子、今まで俺様の為にありがとな。これからは怯えずうまいもん食え。特にこのたこ焼きとかな!!」



「たこ、やき…」



再びずいっと出されたその球体…たこやきにじわりと涙が浮かぶ。
ああ、アヤト様…私、本当に今まで貴方様の毒見係でよかった。




だって私が体を張って守って来た貴方はこんなにも素敵なひとだもの…




「いた、だき…ます…っふぇ」



「!泣く位うまいか!!だよなぁー!今度また新作持ってきてやる!!人間界のたこ焼きはスゲェ種類あんだぜ!?」



彼の優しさが、気遣いが嬉しくてしあわせで…
ボロボロと涙を零しながらふたつめのたこ焼きを頬張れば盛大に勘違いしてしまった我が主にひとつ苦笑。




嗚呼、アヤト様こちらこそありがとうございます。
こんなに素敵な貴方を守らせてくださって、本当にありがとうございます。



夜空の下口にした二つ目のアヤト様がくださったたこ焼きは
涙ですこししょっぱくて、どこかしあわせな味が…した。



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