風邪〜スバル君の場合〜


花子の奴が風邪を引いた。
正直どうすればいいのか分からなくて、人間の風邪について書かれた本を見てみたけれど
細かい文字が多すぎて、っつーか書いてること意味不明でイラついてその本を放り投げた。


するとそれは幸か不幸かレイジの顔面にぶつかってしまい、すげぇ怒られてしまったけれど
事情を把握したレイジは渋々ながら俺に人間の看病の方法を教えてくれた。


「よし…こんなもんか」


「ご、ごめんねスバル君…迷惑かけちゃって…」


小さな声で力なく笑う花子は見ていて痛々しい。
今彼女は毛布とシーツにくるまって額には俺が絞ったタオルをあてて浅い呼吸で苦しそうだ。
たしかおかゆってやつはレイジがつくってくれているから今俺に出来る事はこれくらいだ。

小さく息を吐き、ポンポンと頭を撫でてやると嬉しそうに目を細める花子につられて俺も笑ってしまう。


けれどやはり顔色は悪くて呼吸も苦しそうだ。
ああ、なんか他に俺が出来ることってねぇのかよ。

もどかしさから小さく舌打ちをすれば、花子は俺が怒っていると勘違いしたようでボロボロと涙を零し始めてしまった。


「ごめ…ごめんなさいスバル君…風邪なんかひいちゃって…面倒くさいよね…ごめ、なさ…」


「ああーもう!ちっげぇよ!花子が心配なだけだっつーの!…あ、」


「え」


泣きだした花子を前に出てしまった俺の本音に思わず二人してボフンと顔面を沸騰させて
慌てて互いに顔を逸らしてしまう。


くっそ、こういう時にムカツクけどライトみたいにこう…スマートに出来ねぇもんか。
ん…?そう言えばこの前アイツ言ってたっけか…。


『人間の風邪って言うのはねぇ?口移しで移っちゃうんだよ〜。つまりーキ・ス♪んふっ』


…あるじゃねぇか、まだ俺に出来る事!
勢いよく花子の方を振り返ると彼女は驚いたようでビクリと身体を揺らす。
そして不思議そうな顔で首を傾ける。


「ス、スバル君…?」


「よし花子、キスすっぞ。」


「え、えぇ!?」


がっしりと彼女の両肩を掴むと更に赤くなってしまった彼女に俺まで恥ずかしくなってしまう。


いや、でもこれからするキスっつーのはそのなんだ花子の為であって決して普段より潤んだ瞳が可愛いとか決してそんなんじゃない。


有無を言わさず彼女の唇に自分のそれを重ねれば花子も観念したようにゆっくりと瞳を閉じる。


ちゅっちゅっと何度か角度を変えて唇を奪えば微かに震える花子に苦笑。もう初めてじゃねぇってのにいつまで経っても初々しいと思う。


「ス…バル、君。」


「よし、これで花子の風邪は俺に移ったな。」


「え!?だ、だめ!」


満足気に微笑めば反対に顔面蒼白の花子が俺の胸倉を掴んで思いっきり引き寄せて
今度は花子が俺にキスをしてきた。
正直彼女からのキスってやつは初めてで、俺はこれでもかっていうくらい顔を赤くしてしまった。


「な…っ、おま…、何して!」


「だってスバル君に苦しい思いしてほしくないんだもん!だから風邪は全部私がもらうの!」


「ふざけんなよ!そんなに苦しいなら余計俺に寄越せ!花子が苦しい思いするのを俺に黙ってみてろってのか!」


「わ、私だってスバル君に苦しい思いしてほしくないもん!」


お互いぎゃんぎゃん喚き合ってそっからはキスの奪い合いになってしまった。
俺が花子の唇を奪ったと思えば今度は花子が俺の唇を奪ってくる。


「だぁぁぁあ!埒が明かねぇ!お前いい加減キスされたら大人しくしとけ!」


「やだやだやだ!大好きなスバル君にしんどい思い絶対させたくない!」


「はぁ!?ふざっけんな!俺の方がお前の事愛してんだよクソが!」


「私の方が愛してるもん!もう何でも捧げちゃうくらいあいしてるもんー!」


もう既に掴み合いのケンカになってしまい、今はどっちに風邪が移っているのかさえ分からない状態だ。


そして今はどちらの方がどれだけ愛しているかの張り合いになっている。
…ん?アレ?俺何盛大にコイツに向かって愛を叫んでんだ?


はた、と一瞬思考回路が正常に戻った時に不意に明かりが不自然に部屋に入っている事に気付く。
扉の方角を見ればソレは開きっぱなしで、そこからにょきっと三つ子が顔を出す。


「おいスバルいちゃつくのは扉閉めてからにしろよな。」


「さっきから愛の言葉の応酬…イライラします…」


「スバル君〜キスで風邪が移るって言うのは嘘だからね?」


「おま…っ、お前ら…いつから…っ」



足先から頭のてっぺんまでぶわっと熱が集まるのが分かる。そしてだらだらと冷や汗も尋常じゃなくかいてしまっている。
ブルブルと震えながら問うてみれば三人はニタリと意地の悪い微笑みを浮かべ俺へこう言った。



『最初から』



瞬間、花子頭からは出てはいけない煙がボフンと立ってしまい、そのままグラリとベッドへ倒れ込んだ。
そしてそれを見た俺は恥ずかしさと焦りとなんかもう色々な感情が入り混じって本日一番大きな声で喚き散らした。


「気付いてたなら扉閉めてやれよくそがぁぁぁ!!」



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