風邪〜ルキ君の場合〜
「近付くな家畜。移る。」
「ひ、ひどい!彼女に向かって何その台詞!ルキ君のドS−!」
「ええい!抱き付くな!話を聞いているのか花子!」
「聞くか!聞くもんかー!ルキ君に看病してもらうのー!」
ルキ君にぎゅうぎゅう抱き付いたまま掠れた声で叫び散らせば綺麗な顔を歪ませた彼が徐に大きなマスクを取りだして乱暴に私に装着させたかと思うと
そのまま勢いよく部屋の扉を開けて乱暴に私を放り込んで大きな音を立てて閉じ込められてしまい、ガチャリと乾いた音がした。
「ちょ、ちょっと!鍵までかけるなんて酷いよ!これじゃ監禁じゃん!」
バンバン扉を叩いても何の反応も無く、私は大きくため息をついてもぞもぞとベッドの中へもぐりこんだ。
ちぇ、折角風邪ひいたんだからさぁ…こう、ルキ君と甘々な時間を過ごせるかと思ったのにー。ここまでがっちり閉じ込められちゃなんにもできないよねー。
「あ、あれ…?」
気が抜けた途端世界がぐるぐる回る。
ヤバイ、思った以上に症状は酷いみたいだ。身体も熱いような寒いような…よく分からない感じで
只々ガタガタと震えてしまう。瞬間視界は真っ暗になって意識は強制的にシャットダウンされてしまった。
「…ん?」
次に目が醒めれば見慣れた天井。当たり前か…ルキ君に監禁されたんだし。
…別に根に持ってるわけじゃない。決して。決して。
けれどおかしい、乱雑にかぶっていたシーツは綺麗に整っているし、不意に自分の姿を確認すればいつの間にかパジャマだ。アレ?私普段着のまま寝てたはずなんだけどな。
そしてようやく気付く額の冷たいタオル。
え、何。どういう事?
よく分からない現状に頭の中はハテナだらけだけれど今は考える余裕もない。先程よりましだがまだ長く意識が保てない。私はまたゆっくり目を閉じて意識を手放す。
ガチャリ
深く深く眠っていると鍵の開いた音がして私は意識を覚醒させるけれどだるくて目を開けることが出来ない。
一体誰だろうか…そんな事を考えていれば額のタオルが取られた感触。
代わりに自分の熱で温くなってしまった先程のタオルより冷たい人の手…
「ん…熱はだいぶ下がったか。」
安心したような声の正体に私の心臓は飛び上る。
るるるるルキ君じゃーん!
今すぐ飛び起きて抱き付きたかったがもう全身が鉛のようでそれは叶わない。
すると彼は徐にまだ眠っていると思っている私の身体を抱き上げる。
そして優しく頬を何度も撫でてくる。
「全く…こんなに酷い状態なのに叫び散らかして…馬鹿花子」
悲しそうなそんな声にもう目を開けてしまいたかったけれどどうしてもあかない。
暫くしてガサガサと音がしてまたルキ君の声がする。
「花子…少し苦しいかもしれないが、我慢してくれ。…ん、」
「………ん、」
瞬間重ねられた唇から流れ込んでくる水と苦い味に思わず眉間に皺を寄せて
ようやくうっすらと目を開けることが出来て、焦点の合わないまま彼を見つめれば普段はそんな顔しないくせにとても優しい笑顔…
「ル…キ、く…」
「花子…眠れ…次に目が醒めたときはまた俺にその愛らしい笑顔を見せてくれ」
彼のそんなささやかな願いを全力で叶えてあげたいのに今はどうしても笑うことが出来なくて
只彼に言われるがままに瞳を閉じた。
意識が落ちる最後に瞼に触れた冷たい唇と
「愛している」
そんな甘い言葉と共に、私は夢の世界に旅立った。
次に起きたらきっと良くなっている。
そして今日できなかった分たくさんたくさんルキ君に笑いかけていっぱい愛を叫ぼう。
(「花子ちゃんふっかーつ!」)
(「喧しい…やはり花子は少しばかり体調が悪い方が大人しくていいな。」)
(「そんな事言ってー。ホントは淋しかったくせにぃ。」)
(「ああ、淋しかったぞ…とても、な。」)
(「うん…うん、ゴメンルキ君…恥ずかしい…」)
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