1:恋に堕ちる
チラリと見かけたその姿。
屋上でたった一人夜空を見上げるその瞳はとても穏やかで
ふわふわとした柔らかな表情がとても印象的。
私はその名前も知らない彼に一瞬で恋をした。
「と、まぁそんな訳で鬼のように調べ上げた挙句様々なコネを使いまくってカールハインツ様とマブダチになって此処にやってきました花子ですヨロシク。」
「ぼ、冒頭の!冒頭の乙女チック文章は一体何だったんだ帰れ!!」
ちょっとした自己紹介をすればご長男が私の天使を必死に庇いながら追い返そうとするので
大きな溜息をついてマブダチからの手紙を差出した。
すると彼はその内容を見た瞬間わなわなと体を震え始めさせてしまう。
「る、ルキ君…なんて…カールハインツ様なんて書いてあるの…!?」
「お、王様の命令は絶対だよ…カールハインツ、と」
「おおおおおお王様ゲームじゃねぇんだぞ!!!何考えてんだよカールハインツ様は!!!」
次男が涙目で長男に問えばそれに涙声で答える長男。
そして三男は頭を抱えながら盛大に吠えるけれど今の私としてはそんな事どうでもいい。
あの日から…一目で彼に恋をしたあの日から
私はそんな自身の王子様の名前やら身長体重、その他諸々いっそ下着のサイズまでも調べ上げて
教会とか魔界とかその他のコネをありとあらゆる手で入手してここまでやって来たのだ…!
ぶるぶると今までの血のにじむようなというかぶっちゃけ血とか余裕で垂れ流した気もしなくもないけれどそんな努力を思い返し震えていると、大騒ぎしている三人の後ろからひょこっと現れた最愛に思わず胸が高鳴る。
嗚呼、会いたかったの…貴方に、もう一度会いたかった。
「ルキ…おきゃくさん、みえない…よ?」
「あああああずあずアズサ…!い、今は表に出るんじゃ…ぐはっ!」
長男の後ろから現れた傷だらけの少年を見た瞬間私はもう我慢が出来ずに
焦りの表情を見せたちょっとたれ目なハンサム長男をはねのけてそのままその細すぎる体をぎゅっと抱き締める。
嗚呼、やっと…やっと再会できた私のいとおしいひと!!!
「アズサ君…!!!嗚呼、会いたかった!!!この世の穢れを知らない私だけの天使!!!」
「てんし…?ふふ、違うよ?俺は、吸血鬼…だよ?」
「ああん!じゃぁじゃぁ吸血鬼君みんな白い羽生えちゃってるのかなー!?やっぱりー!?花子ちゃん知ってたー!!!」
ぎゅうぎゅうすりすり
今まで会えなかった分を補おうと必死に天使、あ、ちがった吸血鬼…いやいやそれも違う。
自身の最愛である無神アズサ君に抱き付いて頬擦りをしまくると高速でスリスリしたためかちょっとほっぺが熱くなる。
するとぐいいいいと後ろに引っ張られる感じがしてビキリと青筋を浮かべて視線だけ背後にやれば
私の服を全力で引っ張るお邪魔虫兄上たち。
「アズサ君から離れなよ!!アズサ君に会いたいからってカールハインツ様ダシに使っちゃうとか何事だよ!!!俺は認めない!!」
「全くだ…!アズサもこんな変な女から離れろ!!アズサに会いたいが為に魔界にまでコネを作る女だ!得体がしれん!!」
「!…おれ、の為に…そこまで…してくれたの…?」
次男…無神コウって言う固有名詞を付けたあざとい吸血鬼と
長男…無神ルキとか何とか言ってたはず多分そんな感じのアレが声を荒げるけれど
アズサ君はそんな二人の言葉を聞いて綺麗な目を見開いてそわそわとした感じで私に問うてくるので勢いよく首を縦に降る。
すると彼の表情はとても嬉しそうな笑顔に変わった。
「うれしい…俺のこと、そんなに求めて…ひつよう、として…くれるなんて…なんて素敵なひと…」
「おいおいおいおい!アズサふざけんな惑わされんなっつーか惑わされる要素がどこにもねぇわ!」
うっとりとした声でそう呟いたかと思えばアズサ君からも私の事をぎゅっと抱き締めてくれたので
もはや私の乙女ボルテージは初日からフルスロットルである。
三男の…ええとなんだっけ?無神ゆ…?まぁ良いわそんなのどうでもいい。なんかデカイ鬼が焦りながらアズサ君を説得しようとしたけれど
天使に巨人の声なんて届かない。
「ねぇ…なまえ…なまえは?なんていうの…?俺の事を必要としてくれる…だいすきでいてくれるキミの…なまえ…」
「花子!花子っていうのアズサ君!!!これからはずーっと一緒だよ!!」
「!花子…さん、ふふ…花子さん…可愛い名前…ふふ、よろしく…花子、さん。」
ちゅっと嬉しそうに微笑んだアズサ君が私の頬にキスした瞬間
「俺達は絶対に認めないからな!!!」というどっかの三人の絶叫が聞こえたけれどそんなのどうでもいい。
私はアズサ君がいればそれでいいというかアズサ君しかいらなし他はぶっちゃけ棒人間である。
「宜しく、アズサ君!だいすきだよ!!!毎晩寝かせないからね!!」
こうして天使と美少女の純情ラブストーリーは幕を上げたのであった。
「…おい誰だ天使と美少女とか図々しい事言いだした大馬鹿者は。…こんなの天使と野獣じゃないか。」
絶望に打ちひしがれたたれ目の棒人間がそんな事を言ったような言ってないような気がしたけれど
私はアズサ君にぎゅってされるのに忙しいのでそんなの気にしてる余裕なんてなかったのだ。
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