10:小悪魔と野獣物語


あれから暫くして毎日愛し合って触れ合って
沢山アズサ君に愛情を捧げていれば不意に私の携帯に一通のメールが届いた。



「夜会?」



それは私のマブタチからのモノで、内容を見てみると
そろそろ覚醒が近いであろう私とそんな私に日々愛されているアズサ君に
素敵なひと時を過ごしてもらいたいので丁度今夜魔界でパーティを開くから良かったらおいでとの事。
全く…こういう計らいをしてくれるから王様って素敵だよね。



「と言う事でパーティに向かうにあたってドレスを用意してみましたやはり純粋な私には白が似合うしやっぱりマブダチとは言え王様に手土産がいると思ってケーキも用意してみた私は女子力高いと思う。」



「…どう見てもその格好はウェディングドレスだしケーキもウエディングケーキだなふざけるなカールハインツ様を腹筋崩壊させる気か野獣今すぐ着替えろ。」



「ふふ、花子さん…かわいい。ぎゅってしたい。」



「ああん!流石美的センスあふれる天使は違う!!いいよアズサ君ぎゅってしていいよ!?」



眉間に皺と頬に青筋浮かべるルキ君とは違ってアズサ君は純粋に私の格好を褒めてくれるからやはり天使は一味違うんだなって思う。
私の言葉にぱああっと顔を笑顔になったアズサ君がぎゅうぎゅうと抱き締めてくれるので今宵もその心地よい感覚に溺れながらも瞳を細めた。
嗚呼、やっぱりアズサ君は私の天使だ!!!






「まぁね、うん。天使は天使だけどやはり私はココに来るとどうしても見劣りしてしまう仕方ない。」



「大丈夫。花子さんは十分に…可愛い、よ?」



「いやん、アズサ君ってば優し過ぎるもういっそ吸血鬼やめて本気で天使になればいいと思ったけどそんな事したら私覚醒できないからずっと吸血鬼でいてね。」



小さな私の卑屈めいた言葉を逃さず拾い上げて優しい言葉をかけてくれたアズサ君の手をぎゅっと握った。


いつだって自分の事美少女美少女とは言っているが流石に芸術的美しさを持ち合わせている吸血鬼様達の中に放り込まれると少しはへこんでしまうというのが人間の性である。


…以前カールハインツ様と交流するために乗り込んだ時はもうアズサ君と仲良くなりたい一心だったからこんな事考える余裕なかったけれど
今は望んだ彼がこうして隣にいるからこう言う事も考える心の余裕が出来たのだろう。




クスリ
小さな笑い声が聞こえた。
おい今アズサ君見て笑っただろ宜しいならば戦争だ。
顔は綺麗なのに性格悪すぎるひとりの吸血鬼を一発殴ってやろうと思い、足をそちらに向けると繋がれた手にぐっと力がこもった。
振り向けばアズサ君が少し悲しそうな顔をして笑ってて顔をゆっくり横に振ったのだ。




「…アズサ君、ちょっと優し過ぎなんじゃない?そんなとこも好きだけど。」



「仕方ないよ…花子さん、も…ごめんね?花子さんはこんなに素敵なのに…俺、」



「アズサ君、それは私に失礼。」




小さく溜息をついて優し過ぎる彼を咎めると返ってきてしまいそうになる自虐的な言葉を遮ってパーティ会場の中とかそんなの関係なしにその大好きな彼の唇を塞いだ。
チラリ、チラリと周りの視線が私達を射抜くけれどそんなの関係ない。
今私はとても腹を立てているんだ。



「花子さん…?」



「私がどれだけアズサ君の事大好きなのか知ってるクセにだいすきなアズサ君を貶すような言葉は紡がないでよ。…ね?」



「……うん、そうだった。…ごめんね?」



私の言葉にようやくいつもの嬉しそうな、幸せそうな笑顔になってくれた彼に一安心だ。
前も思ったけれど私の幸せって彼がこういう笑顔になってくれることかもしれない。
だって今現にこうして私の胸は幸せであふれかえっている。



こうなってしまえばもはや二人だけの世界で、とても広いダンスホールでふたり
クスクスと小さく微笑み合った。


すると今度は私を見た吸血鬼の1人がボソリと「何と貧相な」なんて呟いてしまったのでビキリと青筋が浮かぶけれど
この瞬間、この優雅な音楽が支配するダンスホールに大きな悲鳴が鳴り響いてしまう事になる。



「うわっ!うわぁぁぁぁ!!!!」



「ああ、ごめんね…なんだか、とてもいやな言葉が聞こえて…」



「え?」


叫んだのは先程私を馬鹿にした吸血鬼。
アズサ君の手には真っ赤に染まったナイフ。
そして怒りと言うか何というかもはや狂気に染まってしまっているのではないかと言う彼の瞳。



「あず、アズサ君?」


「ああ、花子さん…俺も分かったよ…最愛を貶されるとこんなにも…うん、こんなに怒ったのは初めてかもしれない。」



ぎゅっと片腕で私の体をきつく抱き締めてそんな事を言うアズサ君は本当にガチギレと言った状態で
この時ふと最近ルキ君が言っていた言葉を思いだす。



『野獣、ご愁傷さま』



嗚呼、そう言う事か。
私に愛されるアズサ君も傍から見たら可哀想だったのかもしれないけれど
アズサ君だって…初めての愛をどう表現すればいいかわからない彼は今本当に私に関しては感情のままに動いてしまうらしい。



そうだね、ご愁傷さまはアズサ君じゃなくてホントに私か。




「アズサ君」



「?」



ぎゅっと怒りに満ちてしまっている彼の体を抱き締める。
するとどうして私が止めているのか分からないと言った状態で首を傾げる彼に小さく苦笑。
ううん、アズサ君はやっぱり天使だ。



「アズサ君、あのね?私が笑われたらその人を殺すんじゃなくてその分私を愛してほしいな。」



「花子さん?」



「ね?さっき私もアズサ君を笑われて殴りそうになったけど…そっちの方がもっと素敵じゃないかな?」



優しく笑いかけると彼も一緒にへにゃりと笑ってくれる。
そうだね、これから二人で沢山色んな愛し合い方を見つけることが出来れば素敵かもしれない。
幸いもうすぐ覚醒する体…時間は無限にあるんだ。
こういうのも、存外悪くないと私は思う。



「そうだね…うん、そうか…ふふっじゃぁ…俺がさっき笑われた分、沢山花子さんを愛するね?」



「あず、」



「あ…でも…こういうのはどうかな…んんっ」



一つ咳払いをした彼がいつもより大きな声で沢山の言葉を紡ぐ。
それは普段のまったりした口調ではなくてとても流暢でそれでいてハッキリしたもので
思わずその内容が耳に入った瞬間私の顔面はぼふんと赤くなってしまう。



「花子さんは吸血されてる時とっても可愛い声を出すんだよ?嗚呼、後俺と愛しあってる時の顔もかわいい。それと俺をギュってしてくれる腕はとても好き、後それからえっと」



「あずあずあずアズサ君一体何どうしたの!?」



「?愛は言葉にした方が分かりやすいでしょう?…いつも花子さんが俺にしてくれてるみたいに。」



「くそう!教え方間違えた!!」



きょとんとした感じで「何か間違ってるかな?」と言ったように首を傾げちゃうアズサ君に何も言えない。
だってこれは今まで散々私はしてきた事だもの。
これを否定したら私の愛情表現全てを否定してしまうのでホント何も言えない。



「あとね?一緒にお風呂入った時に見える桜色の肌も素敵。それから何よりいつだって俺に大好きって言ってくれる花子さん自身がだいすき」


「んんんんんん!」



一度語りだしたら止まらない彼の言葉に次第に周りの吸血鬼達の目が優しいものへと変わる。
そして最終的には「他は?」「他は彼女のどんな所が好きなの?」と聞いて来てしまうひとも出てきてしまってもはや私は全身真っ赤にするしかなかった。



「…はい、おしまい。ホントはもっとたくさんあるんだけど疲れちゃった…ごめんね?」



「あず、アズサ君は天使じゃなかった…」



「?だから俺は…初めから天使じゃないって、言ってるよ?」



ようやく終わった盛大なる私のノロケに精神的にボコボコにされてしまった私は綺麗なドレスの事なんてお構いなしに膝から崩れ落ちてぶるぶる震えていると
ひょいっとしゃがみ込んだ彼がニッコリと笑っちゃうものだからそんな彼につられて私も一緒に困ったように笑う。
うん、アズサ君は天使じゃなかった。ホントにね。




「そうだね、この小悪魔さん。」




ちょいと額を小突くとやっぱり嬉しそうな彼。
ううん、こんな私を恥ずかしがらせると同時にどれだけ愛されてるかを教えてくれちゃうアズサ君は天使どころじゃない小悪魔だ。




どうやら私は天使に恋したのではなく
可愛い可愛い小悪魔ちゃんに恋をしたようです。




―fin―



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