7:ずっと一緒
「やって来た…遂にやって来たこの時が!!!」
「コウ、ユーマ!!アズサを連れてどこか遠くへ逃げろ!!!」
「させるかぁ!!!!」
顔面蒼白なルキ君の指示を受けて次男と三男が天使末っ子を抱え上げて何処かへ逃げ出そうとしたけれど
その前に彼らの腕から天使…いやちがったアズサ君を取り上げてそのまま猛スピードで彼の部屋へと避難した。
そして素早く内側から鍵をかけて外の煩すぎるお兄ちゃん達と世界をシャットダウンしてやる。
ふふふ…もう逃げられない。
逃げられないよアズサ君!!
そう、今宵は満月。
待ちに待った満月なのだ!!!
これはアレですよ、渇きに飢えたアズサ君が戸惑い怯える私を無理矢理組み敷いて吸血しまくっちゃったり
血の吸い過ぎて貧血になった私を見つめて悲しげにその可愛い眉をさげちゃったりしちゃう一大イベント!!!
こんな最高なシチュエーション、私が逃すわけないと知っていたであろうルキ君が先程予想通りアズサ君を私から引き離そうとしたので
こうやって強行手段を取らせてもらったのである。
嗚呼、愛しい愛しいアズサ君、今夜も寝かせない!
「うふふふふ、そんな訳でアズサ君!!ほらほら、存分に吸っていいんだよー…って、どうしたの?」
「…………来ないで。」
にやにやとこれから起こりうるラブイベントに緩む顔を抑える事無く振り返れば
どうしてだかアズサ君は部屋の隅っこでちまりと三角座りをしていた。
いつもと様子が違う彼が心配になって歩み寄れば少しばかり強い口調で拒否されてビシリと体を固めてしまう。
もしかしなくてもアズサ君にここまで盛大に拒否されたのはこれが初めてだ。
「アズサ君、どうしたの?私とふたりきりは嫌?」
私の言葉に彼の首は何度は横に振られるけれど
決してこちらを向いてはくれない。
…おかしい。これはいくらなんでも満月だからって言う理由じゃない事くらい分かる。
彼の様子の変化に少しばかり焦りを覚えて、拒否はされてしまったがそれを無視して再び歩み寄り、顔を覗き込んでみると
その綺麗な瞳には沢山の涙が浮かんでいた。
「アズサ君、」
「だって…花子、さんの…血…のんだら…覚醒…うぅ」
ぶるぶると震える声で今更すぎる事を呟かれてこちらは頭にハテナマークが浮かぶ。
いやいやアズサ君、私はアズサ君に一目ぼれしてからめちゃめちゃ吸血鬼について調べまくったから覚醒は余裕で知ってるし
そんな人間を捨てるとかアズサ君と一緒に居れるなら余裕で受け入れますが何をどうしてそんなに悲しそうなのかな?
ひっくひっくと遂に嗚咽まで漏らし始めた彼がたまらなくて
そっとその体を抱き締めてあげれば絡みついてきた細い腕。
そして続けられた言葉は彼の少しばかりの不安。
「花子さんがすき…ほんとは…永遠を一緒にって…でも、覚醒は…誰もが成功する訳じゃ…ないから…もし、花子さんがって思うと…」
「……アズサ君は優しいね。」
彼の優し過ぎる言葉に小さく笑ってしまえばちょっとばかり不満気な顔になっちゃったからごめんなさいとキスをする。
ううん、やっぱり天使は考える事も違うのか可愛い。
安心させるように何度か頭を撫でてあげてそっと耳元で彼の不安を全て壊してあげる言葉を紡ぐ。
「だいじょーぶだよアズサ君。私、アズサ君が好きすぎて魔界にまでマブダチ作っちゃう人間だよ?そんな私が覚醒できないわけないじゃん。適合しなくたってアズサ君の愛で無理矢理覚醒しちゃう。」
「花子さん…」
「アズサ君、私の愛を軽く見ないで。心外だよ。」
揺れる瞳をまっすぐ捕えてそう言えば、ぽろりと一筋だけ彼の瞳から涙が零れおちた。
それはきっと贔屓目もあるのだろうがとても綺麗で優しくて、自分顔からふにゃりと力が抜けるのが分かる。
「花子さん…ずっと一緒にいてくれるの?」
「うん、ずっと一緒にいるよ。」
「俺の事…ずっと、すき?」
「アズサ君がやだって言ってもずっとすき。」
おずおずと問うてくる彼の質問に次々と答えてあげれば
そっと首筋に這わされた彼の舌。
ピクリと動けばちゅっと可愛らしい音が部屋に響き渡る。
「ねぇ…痛いのがいい?気持ちいいのがいい?…花子さんの好きなように吸ってあげる…」
「どっちでもいいよ。…私はアズサ君が大好きだからどっちでもご褒美かな。」
「そう…なんだ…ふふ…そう…ふふふ…花子さん…すき…だいすき」
嬉しそうなその声と共にブツリと皮膚破れて広がる鉄の香り。
その感覚は痛いというか気持ちいいというか
どちらかと言えば愛おしくて
只ひたすらに私を貪る彼を安心させるようにぎゅっとその体を包み込んでそのまま抱き締めた。
ねぇアズサ君、大丈夫。
私、アズサ君の事大好きだから…
貴方がいやだって言ってもずーっと傍にいるよ?
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