8:信じる


「ふふ…花子さん…ふふっ」


「えーへーへーしあわせぇぇ…嗚呼、幸せ!!」



さっきから私の手は宙ぶらり。
なんとアズサ君が私の事をぎゅうぎゅうと抱き締めてくれているのだ!


いつだって私から抱き付いているのに最近はよくこうしてアズサ君から抱き締めてくれる事が多くなった。


冷たい肌に心地よい香り…これだけで私は世界一幸せ者なんじゃないかと錯覚してしまう。
いや、錯覚じゃなくて確実に一番幸せ者だ。



「アズサ…お前、まさかとは思うがこの野獣…永遠に飼うつもりなのか?」



「…ねぇルキ君。最初っから思ってたけどさ、野獣って酷くない?また本燃やすよ?」



先程から本に夢中だったルキ君がチラリと私達を…というかアズサ君を見つめてそう言うから
じとりと睨みつけて反撃してみると手に持っていた本がスススと彼の背中へと避難したけれど、そんなんで許すほど私は菩薩ではない。


後でそれも燃やしてやるんだから。



そんな事を考えていると私を抱き締めていたアズサ君の腕にぎゅっともう少しだけ力が入る。
どうしたんだろうって彼の顔を覗き込めは酷く幸せそうな笑顔がそこにあった…。



「うん…俺、花子さんと…ずっと一緒にいる……花子さん、も…やくそく…してくれたから…」


「あずさ、く…」


「こんなに愛してくれてるんだもの…この愛…は、信じなきゃ…ダメだって…思うんだ…」



ちゅっと頬に落とされた唇は何だかとてもあたたかく、愛おしく感じるのは
きっと…ううん、絶対、アズサ君がようやく私の愛をちゃんと信じてくれたからだ。


その事実が酷く嬉しくて自分からもスリスリと彼の胸板へと擦り寄れば嬉しそうな微笑みが響いて胸がぎゅっと苦しくなる。



「しかしアズサ…」


「ルキ」



それでもやはり末っ子が心配なのかルキ君が何かを反論しようと言葉を紡げば
それを遮ってしまったアズサ君の声はいつもよりしっかりしている気がする。




「ルキ…だいじょうぶ。花子さん…は、ちゃぁんと俺が…守る…守られるだけじゃ…だめだもんね」



「アズサきゅ…」



「ふふ…花子さんが俺を愛してくれて…悲しい気持ちからも守ってくれる…だったら俺も…お返し、しなきゃ…ね?」




そんな風に思ってくれてるとは全く思わなくて思わず上ずった声で名前を呼べば
やっぱり微笑んで素敵な事を言ってくれるアズサ君は相変わらず天使。
でもそれがいつも以上に眩しくて苦しく感じるのは私がアズサ君を好きすぎるからってだけじゃない。



あの満月の日からアズサ君もちゃんと私の事を本当に好きになってくれたから眩しいんだ



「花子さん…花子さん…すき…だいすき…愛してる。ええと、俺…天使じゃないけど…愛してくれる?」



「あ、ああ…あず、アズサ君!!!好き…愛してるよおおおお!!!そうだね天使じゃなかった神様だ!!!もはや私の神様!!!」



困ったように微笑んでそう言っちゃうアズサ君は迷う事無く天使カテゴリなんだけど
本人が天使じゃないって言うのならばそのランクは必然的に上がるというもので
もう我慢できずにぎゅうぎゅうと私もアズサ君を抱き締めるとやっぱり「苦しいよ」って笑われるけれど
でもだって今は私の事を本当に愛してくれたアズサ君を精一杯抱き締めたいんだもの!



「野獣…御愁傷様だな。」



「?」



「ふふ…花子さん…花子さんだいすき。ずーっと一緒…ふふ」



ぎゅうぎゅうと抱き締めあっていればぼそりと聞こえたルキ君の言葉に疑問が浮かんだけれどそんなの今はどうだってイイ。
最愛に愛されるってこんなにも素敵で幸せだなんて思わなかったんだもの!!



「アズサ君!はやく…早く私覚醒したい!!それでずーっとアズサ君と一緒にいるの!!」



「うん…うん、そうだね…うん、ふふ…でも…花子さんはせっかちだな…そんなに俺と一緒にいたいの…?」



早く永遠を彼と共に歩みたくてそうオネダリすれば
やっぱり嬉しそうなアズサ君にちゅっと自らキスをしてニッコリ笑って当たり前すぎる回答を彼に弾丸の如くぶつける。
ああこれ、言うの何千回目だろう。



「当たり前だよ!だって私はアズサ君が大好きなんだから!!」



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