3:火曜日


ああ、今夜は満月か…
ついてない。



酷く渇くこんな夜は大人しくしてようと思って棺桶に引き籠っていれば
コンコンと軽くソレを叩かれる。
くそ、誰だよ…今は誰にも会いたくねぇんだって。
レイジ辺りならマジぶっとばす。



そんな事を考えて無視を決め込んでいたら
覚えのありすぎる苦笑が棺桶越しに響き渡る。



「スバル、スバル。起きておくれ?私、淋しいんだ。…スバル、構ってくれないか。」



「だから!何でそう一々言う事可愛いんだお前は!!ぶっとばすぞ!!」



「ふふ、スバルに可愛いと言われるととても嬉しいな。…おはよう、スバル。」



花子の可愛すぎる懇願に勢いよく蓋を開けて喚き散らせば全く動揺していないように
相変わらずニコニコ微笑んでいる彼女が目覚めの俺を迎える。
…あれ?コイツ、満月だって言うのに全然普段と変わらねぇじゃねぇか。



「お、おい花子…お前は何ともねぇのか?今日は満月だぞ?」



「ああ、そう言えばそうか…まぁそんな満月だからと言ってがっつく程若くないさ。ああ、それより…」



花子のそんな言葉が遠まわしに俺がまだまだガキだって言われているみたいで
ズキリと胸が痛んだ。
そうだよな…花子みたいな大人の女に俺みたいなガキは釣り合わないか。
…いや、でも。それでも俺はどうしても彼女を諦める事が出来ない。



少しばかり暗い事を考えていればスっと彼女の白く手綺麗な指が俺の唇に触れる。
どうしたのかと思ってじっと花子を見つめれば彼女はとても優しく微笑んだ。



「お前はまだ若いから…この渇きは苦しいだろう?ババァのもので申し訳ないが、お飲み。」


「………なぁ花子。お前、初日に俺がババァって言った事、もしかして気にしてんのか?」


「さぁ、どうだろうか。…まぁ事実であるから、しかた、」



含み笑いをする彼女の血を遠慮無く啜る。
但し差し出された指からではなく、その綺麗な白い首筋からだ。
グッと彼女の体を抱き締めて、徐々に力が抜けていく花子を支えてやる。
正直、満月だし、好きな奴の血だから加減ってやつは出来ないと思う。




「…っあ、すば、る…っ、スバル…、あ…ぁっ、」



「ん、何だよ…気持ちいいのか?…気持ちいんだろ?ったく、ババァ気取ってっけど、お前全然枯れてねぇじゃねぇかバーカ。」



甘い声で俺の名前を呼ぶ花子の頭を優しく撫でてやれば
震える手で縋り付いてくる彼女がどうしようもない位愛おしくて
そのまま再び彼女の首筋へと貪り付いた。



んだよ…年の差、気にしてんの俺だけじゃねぇのか。



少しだけ安心して思うままに彼女の血を堪能していれば不意に頭に疑問符が浮かぶ。
…ん?花子は何で俺との歳の差を気にする必要があるんだ?
俺は花子が好きだから気にしていたけれどもしかして花子も…?



いやいやいやそんなそんな。




「ん、スバ、ル…これ以上吸われてしまうと…きっと、明日私は何もできなくなるよ…?」



「は…っ、知るかそんなの。もしそうなったら俺が面倒見てやるし良いだろ?つか一週間面倒みる約束だ。」



「ふふ、そうだったな…ならば、このまま存分に楽しむがいいさ。」



震える静止の声を意地悪く振り払えば
もう降参だと言った表情で笑った花子が優しく俺の頭を撫でたのを合図に
そのまま吸い尽くしてしまうんじゃねぇかって位彼女の血を堪能した。




満月の夜に、最愛の声と血を堪能できるとか
もしかしたら俺って相当な幸せ者なのかもしれない。



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