5:木曜日


「スバルはずっと独りきりで眠っているけれど淋しい時などはないのかな?」



「あぁ?んなもんねぇよ。とっとと寝ろバーカ。」



普段使わない俺のベッドの上でキョトンと首を傾げる花子は相変わらず可愛い。
これで俺よりすげぇ年上とか本気かよ…
小さく舌打ちをして棺桶へと潜ろうとすれば彼女は優しく微笑んで「すばる」と俺の名前を笑顔同様優しい声色で呼ぶから棺桶を閉める手がピタリと止まる。


ベッドの上で微笑む彼女は小さな腕をめいいっぱい広げて更にその笑みを深める。
ああもう、そう言うのが大人の余裕って奴なのか?
やべぇマジで悔しい。



「スバル、おいで?」



優しいけれど有無を言わせないそんな言葉に俺はいつの間にか棺桶を抜け出して久々に自室のベッドの中へ彼女を抱いて埋もれ込んだ。
花子はそんな俺を優しく抱き締め返しながらまた嬉しそうに微笑む。



「………花子がどうしてもって言うからこうしてるだけだ。」



「ふふ、そうだね。…ありがとう、スバル。」



「…べつに。」



ぎゅうぎゅうと彼女を抱き締める腕に力を込めて
少しばかり泣きそうなのを見られないように彼女の胸元に顔を埋める。
すると花子もそのままぎゅうぎゅうと俺の頭を包み込む様に抱き締めるから
ふわりとその柔らかな香りに包まれて小さく嗚咽を漏らして静かに涙を零した。



こうやって、誰かに縋り付いて甘えるのって…うん、何か…いい。



「スバル、今日は一緒に眠ろうか…なぁに取って食いはしないさ。」



「るせぇ馬鹿花子。それは俺の台詞だ。…でも、今日だけ。今日だけは一緒に寝てやる…しかたねーから。」



言葉とは裏腹に彼女に離してもらいたくなくて
抱き締める腕に更に力を込めていると「そんなにされると壊れてしまうよ」って苦笑交じりに言われてしまい
またぼふんと今度は耳まで赤くなってしまう。



けれど俺をからかうのもそれだけで、
花子はそのまま何も言わずに何度も何度も頭を撫でてくれて、その心地よさからうつらうつらと夢の中へと誘われてしまう。



「ふふ、もう眠いかな?おやすみ、いい夢を。」



「ば、か…花子も…一緒に、ねんだ、よ…」



俺の悪態はどうやらここまでで
柔らかで冷たい彼女の身体に抱かれながらゆっくりと現実世界から意識を手放した。
だから花子が最後に告げた言葉は俺に届くことはなかったのだ。




「ねぇスバル…願わくばこうして、土曜を過ぎても尚お前に甘えてもらえる存在でありたいよ…」



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