6:金曜日


明日で花子とさよならするって言うのに
こんな日に彼女は風邪を引いた。
…つか吸血鬼って、風邪ひくんだな。



「すまないねぇスバル…ババァの身体がポンコツで。」



「あーもう!悪かった!初日にババァって言って悪かったよ!!ほら、ちゃんと寝てろ!!」



おどけた様子でそんな事を言う花子を無理矢理ベッドへと寝かしつける。
声も掠れて顔も赤いし目も潤んでる。
…正直理性がヤバいって、自分でも思っている。
けれどそんな理性との葛藤をしていると、花子が困ったように笑って一生懸命その掠れた声で言葉を紡ぐ。



「ありがとうスバル…もう平気だから、風邪が移ってはいけないから私は何処かへ行くね?」


「ば…っ、おま…っ!っざけんな!!!」




ふらふらと立ち上がって俺の部屋から出ていこうとする花子の体を抱き締めて
再びベッドへ放り投げて今度はどこへもいけないようにと覆いかぶさりそのままぎりりと手首を固定している手に力を込める。



「おい花子ふざけんな。俺の体調の心配するくらいならテメェのを心配しろ。」



「…だって私はスバルに苦しい思いをしてほしくないんだよ。」



「っだぁぁぁ!もう!!」



俺の下で拗ねたように唇を尖らせてまた可愛い事を言いやがった花子をそのまま抱き締めて
自分ごとシーツにまるっとくるまれば離せと言わんばかりにじたじたと暴れる彼女をぎゅっと押さえつける。



「昨日の礼だ!!今日は俺に馬鹿みたいに甘えとけ!!」



「す、すば…すば…すばる…っ」



「………おいやめろその顔。マジヤメロ。俺今すげぇ抑えてんだからマジでやめてください。」



どうやら花子は俺を甘やかしたりからかったりするのは大好きなようだが
こうして俺に甘やかされんのは苦手と言うか、今までもそう言う事が無かったのか
顔を真っ赤にしてぷるぷると震えながら瞳に涙を浮かべてじっとこちらを見つめる。
なぁ、好きな奴のこんな顔見て襲ってない俺は聖人じゃないですか?



「ほ、ほら…昨日花子がしてくれたみたいにしてやるから…な?寝ろ。」



「ぅ…スバル、スバル…うぅ」



動揺を隠しきれなかったけどそれでも出来るだけ平静を装って
昨日彼女が俺にしたように、花子の顔を俺の胸へと誘ってやると必死に縋ってくる花子はやべぇ。
なんだ、この破壊力は。これも大人だからなせる業って奴なのか?


掠れた声で何度も何度も俺の名前を呼んでしまう花子への愛おしさがもう数秒前から爆発しきっている俺は
遂に我慢できずにぐいっと一瞬彼女の身体を離してその勢いで触れるだけだけれど、そっとその唇にキスをしてしまった。
ゆっくり離せばぽかーんとしている彼女に対して、やばい、やってしまったと言う後悔とパニックで必死に言い訳を探る。



「ええええとちがう、違うんだあのこれはその…」



「ふふ…キスすれば風邪が移ると聞いていたけれど、真実だったのかな?」



「ああ!そう!それ!それだ!!」



彼女がおかしそうに笑いながら助け舟をくれたから俺はそれにありがたく便乗するけれど
慌てた口調でそう言っていると今度は花子に俺の唇がふさがれた。



…は?なん、は?



一体何だってんだ。
驚きの余りビシリと固まっていれば花子はお茶目に笑って自身の人差し指を俺の唇にあてった。



「先程も言ったけれどスバルには苦しい思いをしてほしくないからね…風邪は返してもらったよ?おやすみ。」


「お…おう。」



彼女はそれだけ言うと自らもぞもぞと俺の腕の中へと戻ってきて
そのまますやすやと眠ってしまった。



…くそ、明日で一緒に過ごすの最後だっていうのに
花子をときめかせるどころか俺がときめいてばっかじゃねぇか?コレ。



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