17:独白
人間って言うのは大体期限を区切られれてしまえばその間全力を出すって言うものだ。
そう、それが例えば自分の命の期限だとしても。
コウ君達の言う“あの方”から警告を受けたのはもういつだったか。
今考えれば随分生きたと思う。今まで楽しかった。
彼は私の“愛”に気付いてくれただろうか?
“好き”と“愛”の違いを理解して、私を信じるようになっただろうか。
もしそうならば、それだけで今まで生きてきた意味があるというものだ。
小さく笑って、最後に彼に伝えたい一文を綴って6枚目の封筒に丁寧にしまう。
出来ることならばこの言葉は私が直接彼に言いたいのだけれど…
あれからコウ君と一緒に逆巻さん達に一枚ずつ封筒を渡していった。
彼等は私が何ら変哲のない一般人だと言う事を知っている。
最期のときが近いのを悟ってくれた天使達はいつも以上に優しくて幸せだったけれど
やはり最後の彼だけは誤魔化せなかった。
「お前が泣かないのが悪い」
酷く怒った様子の彼は私を睨みつけたままそう言い放つ。
仕方ないんですよ。
泣き喚いたところで何も変わらないんです。
それに今は愛しい愛しいコウ君がいるから絶対に泣けない。
彼の前ではずっとずっと笑っていたいんですだから
「シュウさま、ごめんなさい」
私の言葉に彼は小さく更に顔を歪めてそっと離してくれたけれど、何も言わないまま私を抱き締めた。
これならアイツに見えないから、泣けるだろ?
私だけに聞こえるようにそう囁いて、少しでも私の嗚咽がかき消されるようにコウ君へ罵声を浴びせる。
「もうお前が花子の彼女だろ…」
彼の不器用な優しさに少しだけ甘えさせてもらって、私は出来る限り小さく泣いた。
どうかコウ君に彼に抱き締められているのにもかかわらず、いつもの様に騒ぎ散らかさなかった私の違和感が気付かれませんようにと心の中で願いながら。
「ああ、寒い…」
いつもの抱き枕がいないから、俺は小さくそう不満気に呟いて冷たい風が頬をかすめるので小さく顔を歪めた。
遠くからあいつの最愛が泣きわめく声が聞こえる。
花子は、声を潜めて泣く事しかできないのに良い御身分なもんだ。
「おーい…お前の恋人泣いてんぞー…」
そんな独り言を呟いたけれど当然返事わないわけで。
もうこれ以上耳障りな鳴き声を聞きたくなくて、イヤホンを耳にねじ込んで
いつも以上に大きな音量で音楽を流す。
コウはいつも『可愛い花子ちゃんが見たい!』とか喚いてけど俺としてはアイツはずっと可愛らしかったと思う。
人間を食らうヴァンパイアの周りであんなに幸せそうに笑う女なんて他にいないだろうが。なんで気付かないのか。
あの日からどれだけ音量を上げても耳にこびりつくアイツの言葉。
ああ、面倒だ。本当に面倒だ。
「ああーもー、いつまで寝てる気だよ花子…」
お前ほど欲に忠実な生き物なんていない。
だからどうせすぐ目を醒ますんだろう?大丈夫、お前は一般人だろうがそんなの関係ないさ。
俺達を追いかけまわしながらコウをそのデカ過ぎる愛で溺れさせてやれよ。
だからきっとこの最後の封筒も必要ない。
真っ白な封筒を取りだして小さく笑った。
「早く戻ってこい、花子。」
遺書だなんて馬鹿なお前には似合わない。
どうせならまたくだんない本とか描いとけばいい。
“コウ君を残して逝きたくない…”
声を殺して泣いた彼女が漏らした唯一の弱音。
その中でも出てくるアイツに少しばかり嫉妬する。
「いいねぇ、愛されるって…さ。」
まぁでも花子の愛はデカすぎるから願い下げだけれど。
俺達には彼女の“好き”で十分だ。
面倒だけれど仕方がない。いつまでもこの耳障りな鳴き声と花子の弱音が響き渡ってしまえば折角の音楽が台無しだ。
怠い身体をゆっくりと動かして未だに泣き喚いている次男坊の所へ向かう。
「大天使様として信者に慈悲を与えるのも悪くない…」
ヒラヒラと必要のないはずの封筒を躍らせながらも小さく呟いた。
さぁ、アイドルお姫様、今宵も格好良すぎる王子の前に涙する時間だ。
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