18:俺の王子様


「おい、ラスボスがわざわざやってきてやるって何様なんだお前。」


「しゅ、シュウ君…」


俺が泣き続けているとすごく低い声のシュウ君が不機嫌オーラ全開で俺の前に立った。
そしてゴスッと鈍い音がしたと同時に俺の頭に衝撃が走る。
これで殴られたのは本日二回目だ。


「いいい痛い!何すんの!馬鹿!」


「女みたいにぎゃんぎゃん泣きわめいてるお前が悪い。」


「だって…!だって花子ちゃんが…!」


「あーもう、煩い…」


めんどくさそうにした彼がひらひらと最後の手紙であろう真っ白な封筒を片手に躍らせる。
そして徐にそれをテキパキと折り始めた。
彼女の手紙は彼の手によってあっという間に紙ヒコーキと化す。


「え、ちょ…なにして、」


俺の言葉を無視しながらゆるゆるとシュウ君は徐に廊下の窓を開ける。
そしてとんでもない行動を起こす。


「ほーらとんでけー。」


『ああああああ!』



何と彼はそれをゆるい口調で投げ飛ばした。
もう一度言う。投げ飛ばした。
その場にいた俺とスバル君は大声で叫ぶ。
そんな俺達を見てシュウ君はニヤリと笑って飛んでいった紙ヒコーキを指さした。


「早く追いかけないと見失うぞ?」


「わわわわわ分かってるよ!って言うか何でこんな事…!ああもう今はそんな事どうでもいい!」


盛大に叫びながら弾かれた様にその場から猛ダッシュ。
視界の端にご機嫌なシュウ君がニッコリ笑って手を振るのが見えたけれどそれに対して怒っている場合じゃない!

俺は長い階段を走り抜けて学校から飛び出した花子ちゃんの手紙を必死に追いかける。
つーか何これ!何でこんなに長いこと飛ぶんだよ!ていうかどこまで行く気だ!


どれだけ走っただろうか。
ずっとソレを見失わないように上を向きながら、時々誰かにぶつかったりファンの子達が黄色い声をあげていたけれど
そんなの今の俺にとっては知った事じゃない。
あれは彼女の最後の言葉が入ってるんだ。絶対見失うわけにはいかない。
絶対にだ!


「まって…まってよ…!」


もう嫌だ。これ以上彼女に関するモノが俺からすり抜けてしまうのは絶対に嫌なんだ。
絶対に離したくない。それは今眠っているであろう彼女だって同じだ。


捨てるもんか。動かなくたって、その瞳が俺を写さなくたってどうだっていい!
俺を愛してくれていたのは紛れもない“彼女”なんだから!


「花子ちゃん…っ、花子ちゃん…!!」


気が付けば彼女の名前を必死に叫んでいた。
いかないで、行かないで、逝かないで!
出来る限り手を伸ばしてそれを捕まえようとすれば急に紙ヒコーキは軌道を変えて地面に着地した。



「はぁ…っ、はぁ…は、」



足を止めて乱れる呼吸を整えていると、カサリと落ちた紙ヒコーキは誰かの足元に落ちたようで、それはその人に拾い上げられる。


「あの…っ、ソレ、返して…!大事な人からもらったモノなんだ…!」


未だに呼吸は荒い。
けれど、そんな事を構っている場合じゃない。必死になってそれを取り上げた人物に懇願すれば、その人は小さくクスリと笑った。



「やだコウ君、私よりコッチが大事なの?妬けちゃう。ジェラシーよ?」


「…………え、」


その声は今までで一番聞きたかった声で、俺は思わず勢いよく顔を上げた。
そして自分でも分かるくらいぐにゃりと顔を歪めてしまった。
すると“彼女”は意地悪に笑う。


「ダメじゃない。アイドルがそんな顔。」


「…うるさい、」


「私だけにしてよね〜そう言う萌える表情するの。」


「うるさい!」


ボロボロ涙は止まらない。
けれどそれは先程の悲しくて辛くて流した涙とはわけが違う。
そんな俺を見ていつもの優しい声で、両手を広げてキミは言うんだ。



「その涙、拭ってあげるから…おいで、コウ。」


「ぅ、…うぇ…うえぇぇえん!」



盛大に泣きだした俺は彼女に言われるがままその腕の中へ思いっきり勢いを付けて飛び込んだ。


「花子ちゃん…!花子ちゃん、花子ちゃん…!」


「あっははは、なになに〜?私の事大好きってぇ?」


ああ、花子ちゃんだ。彼女の存在を確かめるように壊れた玩具の様に何度も彼女の名前を呼んで
ぎゅうぎゅう抱き締める腕に力を込める。すると花子ちゃんは俺の背中を宥めるように優しく何度も撫でる。



「もうこんな可愛いコウ君心配すぎて死んでも死にきれないよねぇ」


「花子ちゃんがいなくならないなら俺もう可愛いままでいいよ…っ!」



花子ちゃんが俺の前からいなくならないなら何だっていい。
未だにぐずぐず泣いている俺に苦笑した彼女はちゅっとその涙を舐めとった。
這わされた舌は相変わらず熱くて、ぎゅっと目を瞑る。


「人間のままって言うのも悪くないね。こうしてコウ君を温めてあげれるもの。」


悪戯に笑う彼女はとても綺麗で、俺はまた涙を流した。
だいすき、だいすき、あいしてる。
花子ちゃんなら人間だって吸血鬼だってなんだっていいよ。


「ねぇ花子ちゃん…愛してる。誰よりも、いちばん愛してる。」


「うん、私も愛してるよ。」


彼女はそう言うと俺の唇に優しくキスをした。
数日振りのキスはどんなお菓子よりも甘くて、このまま胸焼けしたっていいやって思った。
花子ちゃんがくれる愛情表現はいつだって何よりも甘い。



「そう言えば最後の手紙、なんて書いてたの?」



「“来世でもどうか私に愛されてください”」



「やだもう果てしなく格好いい!」



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