20:壁どーん!
「こ…」
「こ?」
「これだぁぁぁ!」
「うるせぇ!」
ゴスッ!
雑誌を読んでいた俺が高らかに叫ぶと飛んできた右ストレート。
だから!アイドルの顔を殴るって何事だよ!
そんな事を考えているとすごく怖い顔をした花子ちゃんが俺の頭を鷲掴んで額をごちんとぶつけてくる。
「ちょっとコウ君…私は今逆巻家の素晴らしき聖歌を聴いてるの。ぎゃんぎゃん喚かないで耳障り!」
「そ、そんなの聴くくらいならアイドルが本業の俺の歌聴いてよ!花子ちゃんの馬鹿!」
「うるさい!コウ君の歌なんか聴き過ぎてもう振りも歌もブレス位置も完璧だ馬鹿!」
「俺の事大好きじゃん!ときめくっ!」
…違うそうじゃない!
俺がきゅんきゅんしてる場合じゃない!
そう、俺は今からこの雑誌に書いてあるどんな女の子でも胸キュンしちゃう男子の行動を花子ちゃんにして頬を赤らめ恥じらう彼女を見るのだ!
ふっふっふ…さぁ覚悟しろよ花子ちゃん…格好いい俺を目の前にしてその腐った目をハートマークにするがいい!
まぁその前に、とりあえず俺から離れて再び音楽プレイヤーの電源を入れて逆巻家の誰かの曲を聴いてぐねんぐねんしている彼女を何とかするところから始めないと…
「あ、の…花子ちゃん?」
「も、もうもう!ライト君の為なら私は明日の予定デリっちゃうう〜!」
「明日は俺とデートでしょぉ!?」
どうやら今はライト君の歌を聴いているようで、顔を真っ赤にしつつハァハァしてる花子ちゃんが勢い余って明日の俺とのデートを本気でデリっちゃいそうだったから勢いよく彼女の耳からイヤホンを外して
勢いよく壁へと追いやって片手をドンッと花子ちゃんの顔の横辺りに叩き付ける。
「!…コウ君、」
驚いたような表情を見て俺は内心ガンツポーズだ。
どうよ、秘儀壁ドン!
さっきの雑誌に載ってたんだよねぇ〜。
ていうか最近こういうシチュエーションの映画多いしさぁ。ホント女の子ってこういうのに弱いんだから。
それに加えて俺はアイドル。この美貌が間近にあるんだからもうときめかないエム猫ちゃんなんかいないでしょ!?
「ねぇ花子ちゃん…他の男の声ばっかり聴かないでよ…お仕置きされたいの?」
わざと吐息多めで彼女の耳元で囁いてやる。
ふふふ…これで、これで花子ちゃんは落ちる!
けれど彼女が発した言葉はあまりにも無情なものだった。
「30点」
「…はぁ!?」
ドキドキもときめきも全くしていないと言わんばかりの淡々とした声での低評価に俺が思わず素っ頓狂な声を上げてしまうと長い溜息。
そして俺の手を払いやれやれと言った仕草をする。
「分かってない…分かってないよコウ君。乙女ってのは常に進化しているの…ノーマルの壁ドンとそんな台詞じゃもうときめかんよ。」
「え、え?な、何…」
置いてきぼりを食らった俺はオロオロとしていたけれど花子ちゃんはその間に逆に俺を壁に押し付けていた。
「いい?コウ君…最新の萌えシチュってのは…こうだ!」
ゴスッ!
「ひぃ!」
花子ちゃんは得意気にそう言うと突然俺の足の間に膝をい勢いよく入れて壁を蹴り上げた。
余りにもの恐怖に上ずった声を出せば、ニヤリと笑う彼女はとっても妖艶だ。
「これが壁ドンの進化系…股ドン!」
「ま、股ドン…!って、ちょちょちょー!」
まさか壁ドンが進化していただなんて思わなかった俺は只純粋に驚いていたのに
花子ちゃんがいきなりぐりぐりと足を動かしてくるものだからめちゃくちゃ焦り始める。
「あ、ちょ、花子ちゃん!わかった、わかったからやめてお願いします!」
「私を中途半端な台詞とシチュで萌えさせようとしたコウ君が悪い!」
「怒る所が意味わかんないし!ていうか中途半端な台詞って失礼!」
ぎゃんぎゃん喚き散らせば「手本を見せてやる!」と叫び返されて思わずビクリと身体を揺らす。
すると不意に耳元で響く花子ちゃんの普段より低いセクシーな声色。
「私にこうされるだけで感じる淫乱には調教が必要…そうでしょう?」
「ど、どえす!」
顔面蒼白の俺に対して花子ちゃんは笑顔だ。
ニッコリ可愛い笑顔なのだけれど、どうしてか顔に青筋が立っている。
「逆巻の聖歌を強制終了させた罪は償ってもらうから…覚悟してね?」
「ご、ご、ごめんなさぁぁぁぁい!」
そう言えば花子ちゃんが悦ってたのに無理矢理イヤホンを取り上げたのは紛れもない俺でした!
もはや涙目になりながら謝罪の言葉を叫び散らしても時は既に遅くて
俺はこの後しっかりと花子ちゃんに調教というお仕置きをされてしまったのである。
(「ねぇ、例えば逆巻さん達が壁ドンしたら花子ちゃんはどうなるの?」)
(「愚問だよコウ君。内臓もろとも灰になって消えるにきまってんじゃん。」)
(「案外グロい回答!そしてドヤ顔で言う事じゃない!」)
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